ニッポンのオカルト
80年代、小学生だった井浦さん。今はなき「ジャガーバックス」シリーズなど、いわゆる子供向けのオカルト本を読み漁っていたという。
「UFOや心霊、古代遺跡など、いろんなジャンルの不思議なものやことが雑多に入り交じった本をワクワクしながら読んでいました。“遮光器土偶は宇宙服を着た異星人の姿なんだ!”なんて、疑いもせず信じていました」
その頃に買ったオカルト本を今でも読み返すことがあるそうだ。
「当時は規制が緩かったのか、かなり際どい写真や、何でも宇宙人に関連づけてみたり、突飛な仮説を言いたい放題。でも、大人になってから読むと、その想像力をかきたてるストーリーが一層面白く感じられるんです」
そう語りながら、年季の入った『宇宙人のなぞ』のページをめくる井浦さん。ところどころに付箋が貼ってあるので何かと尋ねてみると……。
「実は、今でも旅のガイドブックとして活用しているんです。付箋を貼ってあるのは、UFOの発着基地として紹介されている秋田県の環状列石や日本のピラミッドといわれている尖山など、訪ねてみたい場所について書かれたページ。こういった本から情報を得て、日本の古代遺跡を巡っているんです」とのこと。
オカルトと一口に言っても、そのジャンルは幅広い。宇宙人や幽霊だけでなく、考古学や民俗学にまつわる不思議ネタにも事欠かない。日本の伝統文化にも造詣の深い井浦さんの心を今捉えているのは、日本各地に残された不思議な伝承について書かれた本だ。
「江戸時代に現れた未確認生物の伝承をまとめた『日本の幻獣図譜』(東京美術)や鬼にまつわる文化について書かれた『日本の鬼』(講談社)など、学術的な書物をよく読みます。人知の及ばない世界に想像を巡らせて楽しみたい一方、本当のことを知りたい気持ちもある。昔の伝承は、科学では説明のできないことを知る手がかりを与えてくれる。オカルトと学問をすり合わせた時に見えてくるものがあるんです」
井浦さんのそんな読書歴が俳優としての仕事に役立ったことが一度だけあるという。
「NHKの大河ドラマ『平清盛』で崇徳上皇の役を演じさせていただいたのですが、昔読んだ怨霊に関する本でその存在を知っていて、自分なりに調べていたんです。怨霊となった面ばかりに目が行きがちですが、実は人間的なエピソードも伝わっている。役作りをするうえで、本で蓄積していた知識はとても役に立ちました」
オカルトは異質だからこそ
別の視点を与えてくれる
幼い頃からオカルト本を読み続けてきた井浦さんだが、そこに書かれていることをどこまで信じているのだろうか?素朴な疑問をぶつけてみた。
「本の内容をそのまま信じているわけではありませんが、人知の及ばない物事は必ず存在すると思っています。知りたいと思って、いくら本を読んでも知ることができない。だから、オカルトは面白い。オカルトというと世間では怪しいもの、ネガティブなものとして扱われがちですが、本質がちゃんと理解されていないように思うんです」
井浦さんの言葉に熱がこもる。
「正論や常識的な見解に対して、亜流な研究や異質な説が、いわゆるオカルトとして扱われて下に見られている。でも、本流に抗う独自の考え方も、世の中には必要だと思うんです。物事を一つの方向からしか見ないのはもったいない。いろんな方向からの見方があっていい。それを自分なりに受け止めて、自分なりに楽しめるのがオカルト本の醍醐味。僕にとって、オカルト本は、別の視点を与えてくれる重要なものなんです」