愛って、身を賭すほどの危うさと脆さ
中毒のようにやめられない愛ってあると思うんです。それが全編に映るドキュメンタリー。彼らの音楽への愛は「宿痾」という言葉がぴったりくるほど、病的ですらあります。それは、時々に長尺で挿入されるライブシーンを観れば明らか。人と音がこすれ合いぶつかり合う様子は、荒々しく危なげで、音楽に身を賭すさまが生々しく感じられます。
フールズの中心メンバーの一人である伊藤耕さんの歌は、ストレートで装飾なし。究極の自由や開放への、いい意味での諦めの悪さがあります。僕は20年ほどアフリカの音楽、芸能についてフィールドワークをしてきました。芸能の本質は、社会に風穴を開ける力だと思っています。フールズの音楽にはそれがある。こちらの体に迫ってくるかのよう。バンドメンバーをはじめとする関係者へのインタビューも見どころ。お互いに対する批判には、愛と敬意の気持ちが滲みます。
同じ映像作家としては、高橋監督の姿勢に共感しますね。監督はフールズが活動を始めた80年代からの熱狂的なファン。10年にわたり撮影を続けるというのは彼らのことを単に好きというだけでは当然できません。対象の一方的な観察ではなく、一緒に作り上げようという敬意があります。記録することへの責任感も持ち合わせている。様々な時代にまたがる多様なライブ映像の活用も見事。バンドへの愛に溢れているのです。