“シンパシーの時代”に、共感を脇に置いて考えてみる
5人の作家による合同展で一つ一つ見て回るとあっという間に時間が過ぎていきますね。気づけば2時間経ってた。いわゆる“あるある”な共感ができない時、作品とどう向き合うか。展示に行き慣れていない人に共感以外の鑑賞体験をくれる展覧会とも言えます。
有川滋男さんの作品たちは、実際には存在しない仕事風景の映像作品なのですが、いわゆる共感は皆無でした。でも逆に「なんなんだろう」って気持ちがどんどん湧いてくる。こういう時、私の場合は「信用できる友達」と話したくなる。「わからない」作品は、切実で面白い対話のきっかけを与えてくれるんですよね。
武田力さんの《朽木古屋六斎念仏踊り継承プロジェクト》は滋賀に実在する民俗芸能を次世代に伝える様子を捉えたドキュメンタリー映像。初めて見たその踊りが私の中に種として落ちてきたのを感じました。大学生の頃、教授が言っていた「人は一度見たものを決して忘れない」という言葉が好きでそれを信じているので、こうして全くの未知に触れると、新しい種をもらったようで嬉しいです。
特別感銘を受けたのが渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)さんの《Your Moon》。各地の引きこもりの方やコロナ禍で孤独を感じる人たちが撮影した月を並べた作品です。写真を一斉に見ていたら、不思議な気持ちになりました。
実際、多くの人が一人で月を眺める経験をしたことがあるはず。きれいだなとか、嬉しいなとか、さみしいなとか、置かれた状況やその時の気分に沿った感情を感じながら。みなそれぞれに抱える思いがある、ということが改めて「救い」のように感じました。
言語化すると、至って普通のことに思われるけれど、作品を見ると、生の感情としてそう思う。言葉ってとても便利だけど、心に比べたら不完全なものですね。
共感のその先へ
歌人の穂村弘さんが以前から、表現にはシンパシーとワンダーがあるけれど、今は圧倒的にシンパシーの時代だと言っていて。つまり未知なる驚きよりも“あるある”な共感の方が歓迎されているということですね。
私も短歌を作る時に、「この言葉ではダメ」と何度も書き直しますが、それは単に共感してもらうため、「伝える」ためにしているわけではなくて、私の中で言いたいことを突き詰めているんです。そうして生まれたものには、たとえわからなくても、それだけで終わらない深さが備わると思っています。
共感しにくいものを面白がるのは難しいかもしれない。でも、興味が湧かない理由を探れば新しい視点を得られる。この展覧会を経て、改めて気づかされました。