タンブール タイコ スピン・タイム

上の写真の時計が示している時間が、初見でお分かりだろうか?答えは、10時10分である。ムーブメントを取り囲むように配置された12個のキューブのうち、色が異なるキューブの数字が現在のアワーを示す仕組み。そのキューブと右隣のキューブとが毎正時、2つ同時にカチリと4分の1回転して、次なる時刻へと移行する。
伝統的なジャンピングアワー機構を、キューブ表示という斬新かつ大胆なメカニズムに再解釈して2009年に登場した「スピン・タイム」は、〈ルイ・ヴィトン〉のウォッチメイキングの独創性を象徴する柱の一つである。そんな他に類例がない複雑機構が、完全自社製ムーブメントで新生を果たした。しかも〈ルイ・ヴィトン〉ウォッチの原点である「タンブール」を再構築した、新コレクションとして、である。
和太鼓から着想を得た新型ケースは、その名もズバリ「タンブール タイコ」。そのファーストコレクションは、表現が異なる6つの「スピン・タイム」をラインナップする。全モデルのケースをWG製とし、ダイヤルはドルフィングレーカラーを基調とすることで、コレクションとしての統一感が図られた。6つのモデルはどれも限定生産であり、稀少性の高さでもコレクター心理を刺激する。
中でも超大作が、上の「タンブール タイコ スピン・タイム エアー フライング トゥールビヨン」である。2017年に実現されたセントラル・トゥールビヨンの進化形であり、アワー表示の12個のキューブが透明な空間で回転する様子を露わにしていることが“エアー”との名の由来だ。ここにスペースを大きく取られるため、セントラル・トゥールビヨンが備わるムーブメントは、サイズ的な制約が大きい。しかも最外周には2つのキューブを毎正時に正確に4分の1回転させるための仕組みも必要となる。そのムーブメントを直径34.8mmで実現したことは、まさに驚きである。
径42.5mm。自動巻き。18KWGケース。27,830,000円。
新コレクション「タンブール タイコ スピン・タイム」の残る5モデルも、華やかなジェムセッティングや“エアー”で魅力を発揮する。さらに、これまでの「スピン・タイム」にはなかった機構も登場。キューブをアワー表示ではなく、世界24のタイムゾーンを象徴する都市名表示とした、前代未聞のワールドタイム「タンブール タイコ スピン・タイム エアー アンティポード」である。
これは6モデルの中で唯一、回転する世界地図上に現在地の時刻を示すアワーポインターを装備。毎正時に都市名を刻んだキューブが回転し、各タイムゾーンの時刻の移り変わりを示す。1つのキューブの上下に12時間の時差がある2都市の名を並べることで、12時間表示のままで24のタイムゾーンの時刻を一目瞭然としたのが実にクレバーである。
タンブール コンバージェンス

「タンブール」2025年の新作では、「スピン・タイム」とは異なる時刻表示の表現にも挑んでいる。時・分をそれぞれディスク式として、閉じた時計前面に設けた2つの窓の数字で現在時刻を示す仕組みだ。懐中時計の時代からある古典的な機構を「タンブール コンバージェンス」は、エレガントに昇華してみせた。
“コンバージェンス”とは、ジュネーブに構えるムーブメント部門「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」、ケース部門「ラ・ファブリク・デ・ボワティエ」、そして稀少な手工芸の技術が集う部門「ラ・ファブリク・デ・ザール」、それぞれの職人技の融合を意味する。なるほどPG製のケース前面は、鏡面状に磨き上げられ、時・分を示す2つの小窓の造作も見事。窓の意匠は、アニエールにあるヴィトン家邸宅のディテールをモチーフにしているとか。
そして新設計の自社製自動巻きムーブメントを搭載。それを包むケースの厚みは、わずか8mmに抑えられ、エレガントな印象を一層高めている。これほど薄いのに、「タンブール」を象徴する柔らかな丸みを持つ側面は維持される。〈ルイ・ヴィトン〉のウォッチメイキングは独創性だけにとどまらず、古典を継承し、現代的に再解釈する術も知っている。
径37mm。自動巻き。18KPGケース。5,049,000円。