この世界で知らぬ者はいない虫の巨人
かつてミラノを治めていたヴィスコンティ家の末裔であるジョルジオ・タローニ。ゲーテが愛した別荘地であるコモ湖畔に、ミラノのスフォルツェスコ城を模して建てられたという大邸宅に住む、クワガタムシコレクターの大家である。
「子供の頃から昆虫に惹かれ、世界中の甲虫を数千匹集めましたが、ある時、これらすべての虫を追い続けるのは無理だと悟りました。そこで、大顎のフォルムとその多様性に夢中になっていたクワガタムシをテーマにコレクションすることにしたのです。
当時、ヨーロッパにはクワガタムシに興味を持つコレクターは非常に少なかったのですが、J.P. LacroixやH. Bomansという友人たちがここまで私を導いてくれました。標本だけでなく、クワガタにまつわるすべてのものを私は愛しています」と言う彼は、ヨーロッパミヤマクワガタ(Lucanus cervus)をモチーフにした芸術作品を集めて、その文化についてリサーチした『Lucanus cervus depictus』という著書を共著で出しているほか、タローニノコギリクワガタ(Prosopocoilus taronii)をはじめ、様々な種に彼の名前が献名されていることでも知られている。
日本では大人気のクワガタムシだが、実はヨーロッパでの人気はそれほど高くない。そんなヨーロッパにいながら、欧州どころか世界でも屈指のクワガタムシコレクションを所持しているのだ。
超稀少種だらけ!珍品揃いのキャビネット
約半世紀にわたって蒐集(しゅうしゅう)されたコレクションの中で、代表格といえるのが、サソリクワガタ(Platyfigulus scorpio)だろう。1属1種、スリランカの固有種で、世界中に片手で数えるほどしか標本が確認されていない。

彼の標本はその中でも最も大きく、状態も完璧な個体だ。また、かつてはドイツの一部の地域にのみ生息し、1970年代に絶滅してしまったヨーロッパミヤマクワガタのスカプロドンタ型(Lucanus cervus f. scapulodonta)の標本も素晴らしい。大顎の先端がへら状に発達する型で、おそらくこの地域の個体群だけなんらかの突然変異で発生したと考えられているが、タローニの所持する個体は特大サイズである。
そして、ギアナ高地の独立峰テーブルマウンテンにのみ生息するスジバネギアナクワガタの一種の標本も驚きだ。ここまで大型のものはほとんど例がなく、今後の研究が非常に楽しみな標本だった。
