ジャズ界最注目のベーシストであり、ヴォーカリスト、そして、2023年3月22日にはミニ・アルバム『Kurena』でメジャー・デビューした石川紅奈さん。
学生時代にピアニストの小曽根真氏に見出され、その後めきめきと頭角を表してきた。2021年8月に出演した東京〈COTTON CLUB〉で、マイケル・ジャクソンの「Off The Wall」を、ベースを弾きながら歌い上げ、その動画『石川紅奈 KURENA ISHIKAWA♪Off The Wall』がYouTubeで大ヒット。170万回以上再生され、彼女の知名度が一気に高まるきっかけとなった。
これからのシーンを牽引していく石川さんにとって、次世代に残していきたい、ジャズの入口となりうる“スタンダード・ナンバー”とは?
ジャズの衝撃を教えてくれた「You'd Be So Nice To Come Home To」
まず1曲目に挙がったのは、ケニー・ドリュー・トリオによる、「You'd Be So Nice To Come Home To」。石川さんがジャズ・ベースの可能性に目覚めるきっかけになった一曲だという。
「初めて衝撃的だったというか、雷が落ちた感覚になったのが、この曲です。出合ったのは、高校1年生の時。入学間もない時期で、入ったばかりのジャズバンド部の先生が貸してくれたCDでしたね。
高校からジャズを本格的に聴き始めた私にとって、メロディをベースがとっているのが衝撃でした。それまでは、例えばビル・エヴァンス・トリオが演奏する『枯葉』など有名なスタンダード・ナンバーの録音は聴いたことがあったけど、そんな熱心に聴いていたというより、ジャズってどんなものなんだろうっていうふうに聴いていた。「枯葉」や「Fly Me To The Moon」といった、有名なスタンダード・ナンバーのメロディは知っていましたが、自分がやっているベースは、メロディを取る楽器ではないって思い込んでいたんです。
でもこの曲では、ニールス・ペデルセンが、メロディをベースで歌うように弾いていて。びっくりというか、希望というか、いい意味でのショックを受けました」
ベーシストにして、稀代の作曲家、チャールス・ミンガスとの出合い
「You'd Be So Nice To Come Home To」との出合いから始まり、どんどんジャズにのめり込んでいった石川さん。その中でも、ジャズ・ベーシストとして、さらなる可能性に気づかせてくれたのが、チャールス・ミンガスだったという。
「彼のプレイはもちろん素晴らしいのですが、彼の書く曲すごく好きなんです。初めて聴いたのは大学生のときでしたが、当時は自分ではあまり曲を書いていませんでした。ベーシストでも、こんな素敵な曲が書けるんだっていう、希望を教えてくれたのがミンガスです。
彼の曲からは音楽を広く俯瞰して見ているベーシストの視点、人間らしさ、ルーツやメッセージを強く感じられます。
特に好きな曲は「Duke Ellington's Sound of Love」ですね。
デューク・エリントンを追悼した曲で、あたたかな愛を感じられる曲です。生涯自分の音楽を作り続けていたミンガスとの出会いは、自分でも作曲をし始めるきっかけのひとつになりましたね」