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途絶えかけた島の伝統を次世代へ。沖縄県・西表島〈紅露工房〉の石垣昭子さんを訪ねて

ワイルドで美しく、おおらか。原始の森が生き、澄んだ海に囲まれる亜熱帯の島。沖縄県・西表島には、風になびく芭蕉畑を育み、目が覚めるような藍色の布をつくり出す人々がいる。生命力溢れる大自然のリズムに合わせて糸を紡ぎ、布を織る、紅露(くうる)工房へ。

photo&text: asal

自然資源の宝庫・西表島

フェリーから島に降り立つと、潮風が力強く通り抜け、木々の緑は深さを増していく。東京・羽田から南西へ約2000km、日本のほぼ最西端に位置する西表島。野生の動植物や、自然を楽しむカヤック、ダイビングなどで人々を魅了する八重山諸島は、2021年世界自然遺産に登録された。

手を伸ばせば天然染料が、布をさらす海もすぐそこに

今回〈紅露(くうる)工房〉で特別にお会いすることができた染織家・石垣昭子さん。人間国宝・志村ふくみさんに師事し、途絶えていた島の染織文化を掘り起こすため40年以上西表島で活動。現在は仲間たちに支えられながら、自給自足で染織物を創作している。

しなやかな布が生まれる糸の素材も、鮮やかな色を出す染料も、工房の畑から。琉球藍や紅露(くうる)、福木(ふくぎ)といった染織をアジアに誇る文化芸術ととらえ、次世代への育成に励んでいる。「自然から、必要な分をいただく。風を感じながら季節やその日の変化を捉える。雨が降ったら中に入るし、太陽が出たら布を染める、その日の光で仕上がる色も変わります」。 昭子さんは自身の活動を「特別なことではなく、あたりまえのこと」と語る。お話を伺いながら、庭から今朝採ったばかりというレモングラスのお茶を淹れてくれた。良い香りが鼻にぬけ、ほっと身体が緩む。

古謡・儀礼が文化をつなぐ

四季折々に、島では豊かな恵をいただくさまざまな祭事が開催される。昭子さんにお会いする日の朝、御嶽(うたき)という場所へ特別に連れていっていただいた。御嶽は島の人々にとって儀礼をし、祈りを捧げる大切な聖域で、一般的な観光客は入れない場所だ。昨年逝去されたパートナー・石垣金星さんや先祖代々のお墓も。金星さんは三線の名手でもあり、古謡から学び西表島の歴史や文化継承に貢献、そして昭子さんと染織を復興させるために環境づくりを一から行った。

「ここに工房を構えたときには一帯が竹林だったんですよ。そこから木を植えて、稲作をして自分たちが暮らすために必要なものを少しずつ取り入れていって」。40年以上の年月をかけて、豊かなマングローブの自然を生かし、あらゆる命を大切に暮らしながら、工房を変化させていった。

島とともに、次世代へ

「暮らしも、仕事も、“気持ちよく”。健康で、心が喜ぶ循環ってなんだろうと考えます。手仕事はそこそこに、頑張りすぎないことが大切。そうしないと続けられないからね。皆得意なことがあって、つながり合っていて。それぞれの中にあるクリエイションを生かして、信念を持てるように子どもたちにも話すんです。作ったものを国宝級に飾るだけではしょうがない。日常で生きるものを、時間と人の手をかけて変化させていけたら」と次世代への想いを語る昭子さん。

昭子さんの息子・建さんは、稲作や畑仕事など工房を支える一人。都心で音楽関係の仕事を経て現在は西表島に戻り、昭子さんのもとで染織の修業をする。両親の偉大さに謙遜しつつ、「将来は工房を継続できるようにしたい」と工房の広大な敷地を案内してくれた。1月から2月にかけて日本でいち早く田植えを行う稲作も、島の生態系を育むために必要な行事の一つ。工房を始めた初期から無農薬で、自然な栽培方法でお米と真摯に向き合っている。

山・川・海・人すべてがつながっていて、循環する上で欠かせない存在。そんなシンプルなことを教えてくれる西表島は、恵みある環境の持続性を高めつつ変化していき、希望ある未来へと多様ないのちを育んでいくのだろう。愛情と時をかけ、互いに支え合いながら。