長谷川竹次郎の蓋物
名古屋の金工作家、長谷川竹次郎さんは、僕が最も敬愛する作家の一人。茶の湯の世界では非常に有名な方ですが、その世界観はそれだけにとどまらず、制作範囲はアートピースやアクセサリーなどにまで広がります。
竹次郎さんの凄さは、彼にしかできない、と言われる高い技術力を持ちながら、あえてそれをひけらかすようないわゆる“超絶技巧”に走らないところ。今回の写真の作品は、「蓋物」として中にものを入れられるようになっているのですが、蓋部分の少年と馬は、実は1枚の銀の板を叩き出すだけで作り上げられています。ちょっと信じがたいですよね。別のプロの金工家に聞いてみても、どうやっているか理解できないそうです。
普段はオブジェとして棚に飾っていますが、来客時などに、たまに中にお菓子を入れてお出ししたりしています。一見かわいく、手にすると驚きがある。この蓋物があるだけで、つかみはOKです。
藤森照信のベンチ
基本、夢を持たない人間なのですが、もし一つだけ願いが叶うのなら、藤森照信さんに自宅の設計をしてほしい。そう思っています。仕事でよくお会いする中、ある日、思い切って椅子の制作を依頼してみました。普通ならお受けいただけないのでしょうが、そのときはいろいろなことが重なり、「テーブルセットを作ろう」と引き受けてくださいました。
テーブルセットは日頃、事務所の顔として使用していますが、その一部を構成するのがこのベンチ。座面の一部を藤森さんや職人の川本英樹さんと一緒に彫ったこともあり、最も愛着があります。ぼくはいつも端っこの低い背もたれのところに座ります。
テーブルセットには椅子もあるのですが、なぜかついついベンチを選んでしまう。腰までの背もたれが心地よく、いろんな意味でちょうどいいんです。疲れたときにはゴロンと上で横になったりもします。ぼくの宝物です。
吉村順三のJUNZO CHAIR
5年くらい前に知り合いのリサイクルショップで手に入れました。妻が香川県出身で、同郷の画家・猪熊弦一郎が大好きになった僕にとって、彼と親交の深かった吉村順三は憧れの建築家の一人です。
10年くらい前からジャパニーズモダンの家具に興味があってコツコツ集めていたこともあり、この椅子を見つけたときは即買いしました。吉村順三の折りたたみ椅子といえば、別のタイプが有名です。このモデルはほとんど資料がなく、詳細を調べようとしましたが、見つけられたのは一冊のムック本に掲載された赤色の個体(座面・背もたれの素材違い)だけでした。
この椅子の良いところは、まず折りたたんだときに自立するところ。何かにもたせかける必要がありません。肘置きの革の部分を上に引き上げるだけで簡単にたためるのも便利です。晴れた日にはこの椅子をベランダに引っ張り出し、空を眺めながらぼんやりとコーヒーやビールを飲みます。これからの季節はまさにこの椅子の出番です。