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忙しい大人にこそおすすめしたい!識者3名が誘うインディーゲームの世界

豊かで自由で、刺激的。近年、盛り上がりを見せているインディーゲーム。「忙しい大人にこそ」と、識者たちがシーンのあれこれを語り合う。

illustration: Ryu Okubo / text: Kenta Terunuma

さやわか

『ブルータス』がゲーム特集を作るにあたって、「今はインディーゲームがすごく面白いですよ」と編集部におすすめしたんです。そうしたら、この“インディーゲームガイド”が制作されることになりました。

洋ナシ

なるほど!確かにムーブメントとして、盛り上がっていますよね。京都で開催されているインディーゲームの祭典『BitSummit』(*1)も、とてもメジャーなイベントになりました。

山田集佳

そもそもインディーゲームにはプレイ時間が短い作品が多くスキマ時間に手軽に遊べる。だから、大人にこそおすすめしたいんです。それに、国内外問わず、テーマや設定の個性が際立っている作品が多いところも魅力ですよね。

洋ナシ

でも、「じゃあインディーゲームって、何?」と問われると、難しい。正直、ゲーム開発者も、プレイヤーも、誰もわかっていないことだと思います。

山田

そうですね。今回、私たち3人でインディーゲームカタログを作りましたが、掲載作品を選ぶ時、果たしてこれをインディーゲームと呼んでいいのかと悩んだタイトルもありましたね。

洋ナシ

インディーゲームと呼ばれているけど、実は大企業が作っている、なんていうタイトルもありますからね。だから、遊ぶ側の認識としては「大手ゲーム会社以外の個人や中小企業が作っているゲーム」くらいでいいんじゃないかと思います。

さやわか

1980年代から個人やサークル単位で制作された同人ゲームは存在していましたが、今みたいに「インディーゲーム」という言葉が使われ始めたのは、2004年に「Xbox LIVE アーケード」が出た頃なんじゃないかな。それまでは、任天堂やソニーのようなハードメーカーの審査がなければゲームを出せなかったけど、初めて個人に近いレベルでもゲームを流通できるようになった。

洋ナシ

そして2008年、iPhoneの発売後にApp Storeがオープンした。インディーゲームが商業的に花開いたのは、そのタイミングだと思います。

山田

今ではNintendo Switchがインディーゲームを積極的に取り扱うようになり、みんなその定義を気にすることなく遊んでいる。結果、これまでになくシーンが盛り上がっている印象がありますね。

さやわか

音楽ではインディーロック、映画ではインディー映画があるように、今インディーゲームと呼ばれているものは、全体的に「粗削りだけどアイデアがあって面白いもの」という意味合いや要素が強い。そういう意味でも特にインディーロックに近いノリはあると思います。

洋ナシ

そうですね。「みんなでゲームカルチャーを作っていこう!」というムーブメント、くらいの認識でいいんじゃないでしょうか。

山田

インディーゲームを遊ぶために新しいハードを買う必要はなく、今持っているもので遊べる作品を触ってみてほしいですね。主流はSteam(スチーム)(*2)ですが、ゲーム機ならNintendo Switchでもできますし、スマホでもプレイできるたくさんのタイトルがリリースされています。

さやわか

昔はそのゲーム機でしか遊べないソフトが主流でしたけど、今は「できる限り全部のゲーム機に対して同じゲームを出す」っていう、マルチプラットフォームの時代ですから。

洋ナシ

任天堂も「IndieWorld(インディーワールド)」(*3)というインディーゲーム専門の自社メディアに力を入れていて。マニアが見ても唸る、いい作品を紹介していてとてもおすすめです。ゲームの説明動画も丁寧な作りですし。あと意外なところでは、実はNetflixのスマホアプリでもなかなか良作のインディーゲームが遊べるんですよ。

山田

より原石のような、生っぽい作品を見つけたいなら「itch.io(イッチアイオー)」(*4)でディグるという手もありますが、まずは手近なハードでプレイするのがいいんじゃないでしょうか。

『スイカゲーム』に見るインディーゲームの熱狂

山田

そういえば、今ものすごい勢いで『スイカゲーム』が流行っていますけど、あれってもともとプロジェクターに付属していた子供向けゲームなんですよね。

洋ナシ

そうそう。インディーゲームには『スイカゲーム』みたいに、ゲーム会社じゃない会社が「作ってみた」という感じのゲームがたくさんあるんです。

山田

そもそもビデオゲームの文化自体に、そういう部分がありますよね。今の大手ゲーム会社も、もともと別のことをしていた会社も少なくないですし。

さやわか

インディーゲームという枠の中でやっている限り、あからさまに低予算のゲームも全然OKですからね。

洋ナシ

3分で作ったゲームでも許される土壌があるし、なんならパクリでも許されます(笑)。もちろん開発者の間では訴訟も起こってますけど、「真似し真似されはゲーム文化の華」みたいなところはあるかもしれません。

さやわか

ある格ゲーが流行ったら、それをちょっとアレンジしたようなタイトルが出る、みたいな。

洋ナシ

「ジャンル」というもの自体が、似たような作品が増えることで生まれるものですから。やっぱり真似し真似されは止められないですよね。特にインディーゲームって開発期間が短い作品が多いので、フォロワーが生まれるサイクルが本当に速い。だからこそシーンの熱量を体感しやすいと思います。

3人が改めて考えるインディーゲームの面白さ

洋ナシ

ムーブメントが盛り上がっている結果、今はすごくたくさんのゲームがリリースされていますよね。作り手側も買い手側も層が厚くなってきていて、その状況自体がめちゃくちゃ楽しい。ディグり甲斐があります。

さやわか

僕も同感です!大量にタイトルがあるからこそ、アイデアに富んだ作品が出てきやすい。僕はこれまでいろんなカルチャーを人におすすめする仕事をしてきたんですが、インディーゲームはまさにカルチャーとして、非常に面白いことになっているなと感じています。

山田

パーソナルな表現がしやすいことが、インディーゲームの一番の魅力だと私は思っています。小規模で開発できるから、個人的な事柄にスポットを当てやすい。そして、世界中のいろんな出自の人が作っているのに、日本語に翻訳される機会もとても多い。だから、絶対に「これってまさか、自分のために作られた作品なのでは?」と感じるような作品に出会えるはずです。

洋ナシ

今回、僕らが作ったインディーゲームカタログを使って、たくさんの作品の中から自分にぴったりのゲームを見つけてみてほしいです。それ自体がインディーゲームの楽しさだと思うので、ぜひその醍醐味を体験してください。

山田

Nintendo Switchだけでなく、Netflixみたいに手軽に遊べるプラットフォームもあります。インディーゲームは、そんなに大きなお金も労力もかけずにカジュアルに楽しめますからね。64作のゲームガイド(本誌997号掲載)を眺めて、気に入ったジャンルやタイトルが見つかったら、とりあえず触ってみてほしいです。「完璧にプレイしないと!」みたいな気持ちは持たず、10分触ってみて自分に合わなかったら「よし、次!」みたいな感じのラフさで。

さやわか

そうそう。その気軽さが、いつしか大きな楽しみにつながっていきますからね。きっと「自分にはこれだ!」とピンとくるタイトルに出会えるはずです。