はなふさ イースト店(蹴上)
喫茶店全盛期の景色が残る、京都最古のサイフォン店
コーヒーといえば、サイフォン式。カウンターでは蝶ネクタイをしたマスターが、黙々とサイフォンを操り、琥珀色の液体が上へ、下へ。ホールには、新聞片手にいつものブレンドで一服する常連らしき客の姿。そんな70~80年代に主流だった喫茶店の景色がある。
創業は1955年。東京で学んだ初代が、京都で最初にサイフォン式を始めた。現在は2代目の山本一夫さんが自宅のそばで自家焙煎。独特の抽出法を継いでいる。
一度ロートに沸き上がったコーヒーが、下のフラスコに落ち始めるや、再び加熱して沸き上げ、どっしりと濃厚な味わいに仕上げるのがはなふさ流。良き相棒である自家製チーズケーキも40年以上続くロングセラーだ。
珈琲の店 雲仙(四条)
90年ものの焙煎機が運ぶ、琥珀色のひとときを
使い込まれたガス式焙煎機がガラス越しに見えるここは、京都における自家焙煎の草分け的喫茶店。佐賀県出身の初代が、九州にちなんだ名をつけ、1935年に開業した。それから90年、焙煎機は今もバリバリ現役だ。
3代目の高木利典さんが「焙煎だけは覚えとき」と母から学んだ方法で、音と香りを頼りに焙煎。酸味と苦味のバランスがいい深煎りの味を継ぐ。一方、古いレジスターに刻まれた“THANK YOU FOR YOUR KINDNESS”の焼き印を押したホットケーキは3代目の考案。
和歌山の黒塩を隠し味にみっしりと食べ応えがあるそれは、焼き上がりまで20分。奥の天窓から明かりをとったほの暗い店内で、“コーヒ”片手に待つ時間は、至福のひととき。
COFFEE Cattleya(祇園四条)
店内に井戸が残る純喫茶で新しいコーヒーの味に出会う
レースのカーテンが掛かった〈Cattleya〉の窓が見えてくると、八坂神社はもうすぐそこ。四条通沿いに1944年から変わらずある純喫茶だ。ステンドグラスにランプ、かつて地下水を汲み上げ、コーヒーを淹(い)れていたという井戸も、店内に残る。
2024年7月に新たに店を任された岩城ミナさんは、そんな時の余韻が感じられる往時の面影を大切に残しつつ、コーヒーは一新。かつてスタンドで働いていた時に出会った福岡のロースター〈COFFEE COUNTY〉の、中〜深煎りの豆を使い、マシンで淹れる。
そのしっかりした一杯に合わせたパンナコッタは、プリンのようなルックスながら、クリーミーで濃厚。昭和な空間で味わうイタリアンテイストは新鮮だ。
暖々(北野白梅町)
店主が法被姿でコーヒーを淹れる、上七軒の古民家喫茶
“町家カフェ”より“古民家喫茶”という言葉が似合う店である。明治期に建てられたという2階建ての京町家には、座敷にちゃぶ台が置かれ、今もそこに暮らしがあるかのような素朴さが心地よい。そして、いつも法被姿でコーヒーを淹れる渡邊健吾さんも、その雰囲気作りに一役。
実は渡邊さん、コーヒー焙煎士であると同時に、和太鼓奏者としての顔も持つ。一杯の中で酸味や苦味、コクが、太鼓の音の余韻のように広がる味をイメージしたという中深煎りの“鼓”は、彼らしいブレンドだ。
パートナーである斎藤萌香さんが作る季節のフルーツを使ったデザートや焼き菓子も、ここのもう一つの看板。センス抜群で、こちらも舌鼓を打つこと間違いなし。
IWASHI COFFEE(円町)
閑静な西陣の京町家で、穏やかなシングルオリジンを
インバウンドとは無縁の、まっこと静かな西陣の住宅街に、店はある。白壁の引き戸を開けると、和洋が同居したゆったりとした空間が広がる。手前にはテーブル席と焙煎機、奥には町家の面影を残した広い座敷と裏庭が見える。店主は、飲食店などにも豆を卸している真下(ましも)裕也さん。
焙煎所を探していたところ、この古い町家に出会い、自ら改装し、2020年にカフェとしてオープンした。塾の講師から転身、地元・京都でコーヒー屋を始めて15年ほど。今も変わらず、店内にある小型の直火式焙煎機で、毎朝焙煎。「雑味がない、穏やかな味わい」のシングルオリジンをハンドドリップで丁寧に淹れる。そのコーヒーが落ちる音も、ここでは心地よいBGMだ。
Okaffe Kyoto(四条)
京都の名バリスタが手がける、秘密基地のような喫茶店
なんともわかりづらい入口と、不思議な細いアーケード。店に辿り着くまでのドキドキ感が、唯一無二の個性になっている隠れ家喫茶だ。実はここ、その昔も喫茶店だった。店構えに一目惚れした岡田章宏さんが、前店主に直談判し、2016年にオープンした。
京都の老舗〈小川珈琲〉出身で、バリスタの日本チャンピオンとしても知られる岡田さんだが、目指したのは、バールではなく、「空気がきれいで明るい昭和の喫茶店」。奥に坪庭を望む店内には、カウンターがあり、エスプレッソマシンもスタンバイ。
でも、看板はあくまで、昔ながらの喫茶店の味を再現した、ドリップ式で淹れる、深煎りのブレンド。鉄板で一枚一枚焼くパンどらも、隠れた名物だ。











