「ヤマシタトモコさんのマンガは以前から読んでいて、『違国日記』は、言葉がどこまでも丁寧に選び抜かれている作品だという印象を抱いていました。実写化のお話をいただいてから改めて読み返し、さて、この物語を映画としてどう組んでいけるだろうかと悩みましたが、文字と絵で表現されたものの強度を失うことなく、言葉を役者に馴染ませ、私たちが住む世界に重ねていくことに心を砕きました。
ヤマシタさんからは“映画は映画として”と言っていただけたので、朝や槙生の視点からの回想や主観ではなくて、現在進行形の日常をスケッチするように並べていってみよう、と」
撮影開始時にはまだ連載中だった原作は全11巻。朝という少女の中学卒業から高校3年生までの時間に加え、過去と未来を描く。対して映画では中学卒業から夏前までの数ヵ月の時間が流れていく。
「朝と槙生が一緒に生活して、お互いに向き合うと同時に、2人にとって母であり姉である実里という存在の不在に向き合う。暮らしの風景が少しずつ変化しながら、相手にも自分にもこれまでと違った面を見出していくという流れを描けたら、と脚本を書きながら考えていました。
新垣結衣さんは脚本も原作も丁寧に読み込んで、場面やセリフの有無や変更について質問されたり感想をくださったり。槙生だったらどうするだろう?と考えての提案もいただいて、人物造形だけでなく朝との距離感も浮かび上がらせてくださった。新垣さんに槙生を演じていただけたことで、映画としての『違国日記』の在り方が決まったと思います」
俳優と話し合い、造形を固めていく
朝を演じるのは、オーディションで選ばれた早瀬憩さん。撮影中に15歳から16歳になった。
「親を喪ったことに対する感情も言葉も見つけられずにいる、15歳の少女が抱く空白までイメージして、自分を重ねながら演じる大胆さと度胸のある俳優さんです。幼さを残しながらどこか達観しているような朝というキャラクターの雰囲気を、相談しながら一緒に作っていきました」
2人を主軸に、友人たち、元恋人、家族、朝のクラスメイトや部活のメンバーなども登場する。
「原作には、朝の親友の母や槙生の仕事仲間、かつての恋人の家族の話など、個人的にとても好きな関係性やエピソードがたくさんあるんです。ギリギリまで悩んだのですが、映画として取捨選択していきました。先日TVアニメ化のニュースが報じられましたが、いっぱいエピソード描けるから羨ましい! というのが率直な感想です(笑)」
それでも実写映画を撮る瀬田さんにとって、マンガの世界を実写化する醍醐味とは?
「原作のストーリーに時間というファクターが加わり、役者が演じて言葉が具体的に発せられる。それによって次元が変化していくのは、私自身も観ていて一番わくわくするところです」
2時間19分という映画の時間の外側、物語の前にも後にも登場人物たちが生きて、言葉や感情を発していると感じさせる『違国日記』。
「観る人の年代、観るタイミング、原作マンガを読んでいたり読んでいなかったり、前提となるものはそれぞれに違っているはずですが、観た人の数だけ、さまざまな受け取り方がある作品です。なにが正解かなんて考えず、とにかく自由に観てほしい。
映画館を出たあと足取りが軽くなって、普段の、見慣れていたはずの風景が、ちょっとでも変わって見えたらいいなと思います。そして、明日が少し楽しみになるような映画になっていたら、とても嬉しいです」