笑える短歌は、不穏な短歌
「芸人さんは言葉に気を使う職業なので、短歌に向いているのだと思います。ここで決めなければいけないという一言に、自分を賭して向かっていく。言葉に対する集中力が、短歌との相性の良さだと思います」
そう語るのは、初歌集『わるく思わないで』を発表した歌人で作家の井口可奈さん。芸人が短歌を寄稿するZINE『芸人短歌』を企画編集し、本誌で連載「お笑いライブ偏愛日記」も担当する。今回は親交のある3人の芸人が歌集から1首選び、歌評を執筆した。井口さんにとって、短歌におけるユーモアとは。
「不穏な笑いが好きです。例えばラーメンズには怖いネタが多いし、”怖いコント”という一つのジャンルもある。短歌におけるユーモアもどこか不穏さを呼んできて、私はそれと歩いていくのが好きなんです」
芸人たちが選んだ井口可奈の一首
選んだ人:大久保八億
ガキ使の企画で、初キスの年齢を聞かれた和田アキ子さんが「15歳、公園」と言って歯切れの良さの笑いが生まれていました。この回答と歌との相似からも感じるのですが、井口さんの歌はリズムとブルースだと思います。
選んだ人:谷口つばさ
何となく始めたことが一生続いたりする。「この川の終わりまで一緒に歩くよ」で、振り返ったら「こんなに歩いたのか」と驚くこともあるだろう。散歩も仕事も人生も「ちょっと連れ添うだけのつもり」で続いていく。
選んだ人:鈴木ジェロニモ
「てりやきチキンサンド」を握る手にほんのり力が入る。するとこちら側に、もしくはあちら側に、チキンがにゅっと「飛び出してくる」。社会が商品名に拘束した本質を不意に解き放つ。本気の寝言はこんなにうつくしい。