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『アイスクリームフィーバー』で蘇る90年代の空気。初監督の千原徹也と原案の川上未映子が語る

川上未映子の作品がついに映像化される。短編「アイスクリーム熱」を原案に制作された『アイスクリームフィーバー』には、小説が孕んでいたエモーションが見事に焼き付いている。監督の千原徹也と川上は旧知の仲ということで、製作の経緯や、本作が纏う“90年代の空気について語り合った。

photo: Aya Kawachi / text: Kazuaki Asato

川上未映子

千原くんとは、エッセイ集『りぼんにお願い』の装丁をお願いしたり、ウンナナクールのビジュアルでコラボしたり、もう10年以上の付き合いだよね。同じ関西出身だからか昔からの幼馴染みたいで安心する。「映画を撮りたい」って相談してくれたのは5年前かな。

千原徹也

そうそう。川上さんの小説で映画撮りたいって頼んだら「ええよ!」って即答してくれて(笑)。

川上

千原くんがどんな映画撮るんやろ思て。ずっとお仕事を一緒にしてて信頼してるし、共同作業が刺激になってる。小説家は家で一人、黙々と書くから、千原くんとのディスカッションは楽しいねん。天才ディレクターだから、打ち合わせ中もどんどん私を乗せて、アイデアをたくさん出させてくれるし。

千原

僕も刺激を受けてるよ。「アイスクリーム熱」を原案にするアイデアが出たのも、ウンナナクールがきっかけで。ちょうどモトーラ(世理奈)さんと岸井ゆきのさんがビジュアルをやってた頃で、川上さんの「わたしだけの素敵」っていうキャッチコピーが「アイスクリーム熱」とうまいこと混ざって生まれた。

川上

私は短編小説が長編映画になるのがすごく好きで、『ジョゼと虎と魚たち』も原作のエッセンスを見事に抽出して映画化してて好きなんだよね。「アイスクリーム熱」も本当に短いから、それがどうやって2時間の映画になるのか楽しみだった。結果的に「アイスクリーム屋」という舞台設定以外ほとんど変わっても、小説の空気感が再現されてたね。小説は男女2人の物語だけど、映画は女の子がたくさん出てくるのはどうして?

千原

映画で一人称をやると、モノローグですべてを説明することになる。そうすると、原作の「うまく言葉にできないということは、誰にも共有されないということ」というテーマとズレちゃうんだよ。言葉で説明せず、映像のイメージを重ねることで、観客の数だけ「私だけの映画」が生まれるのを狙ったんです。

川上

それはすごくよくわかる。今の時代って何でもうまく説明することが求められるし、SNSでもうまいこと言える人が人気者になる。たしかに言葉にすることは大事。でも、人生って決してうまく言われへんものやから、みんなが説明上手になる必要はないと思うねん。この小説に書いた、言葉では誰とも共有できないからこそ私だけのもの、っていうのもそういう意味だったから、やっぱり千原くんに撮ってもらってよかったよ。

千原

ありがとう。

©2023「アイスクリームフィーバー」製作委員会

90年代の空気を新鮮に映す

川上

でも、『アイスクリームフィーバー』ってすごく瑞々しいし、眩しいやんか。汚れてしまった私はもう直視できないくらい青春だなって思って。私と同世代の千原くんが、よくこれ撮れたなーって思ったよ(笑)。詩羽さんがアイスクリーム屋で踊るシーンは、ビョークに夢中だったときの気持ちを思い出したもん。「またあの感覚が味わえた、長生きするもんやなー」って思ったくらい。

千原

僕はあのシーンに『バッファロー'66』で、クリスティーナ・リッチが踊るところをイメージしてたな。

川上

なるほどね!ああいうシーンって頭に残るよな。映画ってストーリーももちろん大事やけど、それ以上にイマージュなんやなって思う。そういう私が90年代に観てた映画のエッセンスが『アイスクリームフィーバー』には出てたよ。『ラン・ローラ・ラン』とか感じたし。

千原

懐かしいなぁ!(笑)

川上

あの映画はローラがカーゴパンツにピタT着て全力疾走する、そのかっこよさしか覚えてないけど(笑)。

千原

『パルプ・フィクション』だって振り返ると「結局、何の話やねん」って思うけど、めちゃめちゃおもしろいし、サントラもアホみたいに聴いたよな。

川上

映画はイマージュと音楽だよね。ショットのリズムに合わせてポップミュージックが流れてくるあの感じ。『アイスクリームフィーバー』でいうと、吉澤(嘉代子)さんの音楽がサビに入るとこでバチッと切れるやん。あそこもいい!

千原

あそこはゴダールが唐突に音楽を切るとか、『恋する惑星』で主題歌がエンドロールじゃなくて劇中でかかるとか、そういうのをやった(笑)。でも、ただの懐古趣味で90年代をなぞってるわけじゃないんよな。現代の渋谷で今の女優さんと90年代の空気を再現したら何が映るのかを、まず自分が観たかった。

川上

半分懐かしいのに、新鮮にかっこいいと思えたよ。今の若い子たちはどんな感想を持つかめっちゃ気になるなぁ。

『アイスクリームフィーバー』予告編