ホテル中の島(南紀勝浦温泉/和歌山県)
海に浮かぶ島そのものが温泉宿
気分はまるで豪華客船⁉
島国ニッポンには、至るところに温泉が湧いているものの、島全体が温泉施設になっている〈ホテル中の島〉のようなところは珍しい。生マグロの水揚げ量が日本一を誇る、和歌山県の勝浦港。その先に広がる勝浦湾には、大小130余りの島が点在し、紀の松島と総称される景勝地となっている。外周1.7kmの中の島は、明治末頃まで熊野灘へ漕ぎ出す船の風待ちの場所とされ、帆船を相手にした宿が営まれていたそうで、温泉が湧出したのは昭和初期といわれている。
中の島へのアクセス手段は、専用の送迎ボートのみ。勝浦港からも十分に目視できる距離にあり、乗船時間はわずか3分。それでも降りた場所がいきなりホテルの玄関になっていて、異空間に辿り着いた雰囲気はたっぷり。ホテルの自慢は、豊富な湯量。島内に自家源泉を6本持ち、1日800トンの温泉がこんこんと湧き出ているのだ。
広々とした内湯も快適だが、せっかく島へ来たのだから、海が間近に迫る露天風呂を楽しみたい。最近は外縁が自然と一体化するような“インフィニティ風呂”が人気だが、満潮時は海辺の岩が隠れるほど海を近くに感じることができる。南紀はかつて、伊豆や熱海などと並ぶハネムーンの聖地として賑わった温泉地。岩場を打つ波の音を聞きながら湯に浸かるのは、現代においても最高の贅沢だと納得できる極楽感だ。
島らしさを味わうなら、ホテルから続いている遊歩道を散策してみるのもいいだろう。島の尾根を伝う全長450mの道の途中にある足湯で、遠くに広がる熊野灘を眺めながらまったりするのもオツなもの。島全体が宿という変わった趣向は、勝浦湾に停泊している客船で過ごしているような気分になれる。しかも天然温泉のダイナミックな露天風呂を楽しめるのだから、豪華客船も顔負けだ。