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鑑賞法が分かれば楽しめる水墨画の世界。細川護熙の屏風絵が〈ブルネロ クチネリ〉表参道店で初公開

画家としての細川護熙の作品を実際に見たことはあるだろうか?展示会場となっている〈ブルネロ クチネリ〉のブランド哲学は、どこか作家の生きてきた道と重なる部分があり、その共通点が作品をより輝かせている。水墨画の見方が分かる、解説付きです。

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「世界を救うのは美である」

〈ブルネロ クチネリ〉の本社はイタリア・ウンブリア州のソロメオ村にある。そこは創業者でありクリエイティブ・ディレクターであるブルネロ・クチネリの哲学を反映し、独自の村を形成している。古城を中心に図書館、円形劇場、廃工場を買い取り、果樹園を含めた公園を造営。また、地域の伝統的な職人技術を伝える職人学校もつくった。

ファッションブランドの経営者という範疇を超え、まるで国を動かす政治家のような話だが、すべては「世界を救うのは美である」という思いのもと、実現されたプロジェクト。そのヒューマニストとしての思想や行動が、イタリアの大学や国からも高く評価されてきた。

細川護熙の屏風絵 〈ブルネロ クチネリ〉

作家、細川護熙の世界

話は飛ぶが、そんな哲学を持った〈ブルネロ クチネリ〉が、表参道店の地下2階アートスペースに、一人の芸術家の作品を展示している。それが熊本のお殿様の末裔であり、第79代の内閣総理大臣の細川護熙と聞いて妙に納得した。順番は違えど、その志や哲学はどこか符合するものを感じるからだ。

細川護熙は、陶芸家や芸術家として活躍し、すでに人気作家として精力的に活動し、その世界においても不動の地位を築いている。襖絵や壁画、陶芸に漆絵。書に油絵と幅広い作品群は目を見張るものがあるが、それらがギャラリーやコレクターの手に渡るだけでなく、建仁寺、南禅寺、薬師寺といったお寺に収められると聞くと、改めて驚かされる。

建仁寺に奉納された「四季山水図襖絵」の同シリーズの屏風絵が、初公開!

そして、今回の目玉である「六曲一双屏風 夜桜図」については、東京藝術大学名誉教授・秋元雄史が解説を加えてくれたので、その言葉をここに引用したい。

日本画は継承の美術。伝統のモチーフなどを使いながら、定型化された世界の中に作家の個性を見出します。通常右から左へと絵柄が展開し、視点が移動していくように描かれている。そもそも山水画とは理想の風景を描いたものと考えられていて、風景を引用しながら、内的な宇宙とか、流転する時間を表現するもの。この景色も京都の山を描いたものとされるが、特定の場所ではなく、空想上で仕上げている。

では、この絵に関して。雲ひとつない夜の空に満月。里山にポツポツと、満開の桜の木。春の闇というのはどこかほのかな明るさを湛えています。むしろ昼間よりもくっきりと浮かび上がっているであろう桜の木は、それぞれが孤立しているものの、どこか力強く、今がピークとばかりに咲き誇る。これは作家の心情を反映しているともいえる。ちなみに、建仁寺正伝永源院に奉納された「四季山水図襖絵」の中に、春をテーマとした『知音』という作品があるが、それをモチーフにしている。

奥の深い日本美術の世界

時間の流れが過去・現在・未来とはっきりしている西洋文化に対して、時空の概念が比較的自由で、想像の中で行き来する水墨画の世界は、自然に対する心理的な距離感も独特で、観るものが同化していくような心のありさまが見どころになっている。普段見慣れていない人も、自由な解釈で想像を膨らませると楽しめるはずだ。

障壁画の下絵『東と西の融合』
既に終了してしまったが、薬師寺慈恩殿に奉納した障壁画『東と西の融合』の下絵も展示されていた。