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漫画家・ほしよりこの本棚。地層のように重なる本の山と、濃密な筆致の伝記本たち

スーパー家政婦、猫村さんが日々奮闘する『きょうの猫村さん』シリーズで人気を博す漫画家のほしよりこさん。ほんわかとした雰囲気の中にある人間関係や感情の動きに、はたと考えさせられる。ほしさんの自宅に積み上がった本の山に登ってみよう。

photo: Yuki Moriya / text: Keiko Kamijo

本の“山”が示す、漫画家の興味の行き先

「今ある本と同じくらいの量を処分したばかり」という、ほしさんの自宅リビングには、聳(そび)え立った2つの大きな山があった。ダイニングの棚は、半分が本で埋め尽くされている。

「3年ほど前に思い切って家にあった本を半分くらいに減らしたんです。その時は、古書店でも手に入りにくい本は残して、書店で買い直せる本はすべて手放そうと決意し、近所の古書店に持っていってもらいました。だから、今家にあるのは、古い本や洋書、読み途中のものや、その後手に入れたものです」

リビングの一つの山には画集や連載をしている雑誌が積み重なり、もう一つの山は単行本が高く積まれ、上の方に文庫本がちょこんとのっている。本の山は壁にもたれかかるようにして絶妙な均衡を保ち、かろうじてバランスをとっていた。

ダイニングの棚には、登山や山関連のエッセイ、写真集、ニューヨークにまつわる本、ウィリアム・ブレイクにまつわる画集や書籍、好きで集めている『クレイマー、クレイマー』の各国版等、昔から変わらず好きなテーマの本や比較的よく手に取るものが、旅先で購入した小物などと一緒に収められていた。

また、自宅とは別の作業用アトリエには、漫画や絵を描く際に参考にしたり、休憩時間に眺める画集や大量の掲載誌があるという。資料になりそうなものはアトリエ、残りは自宅となんとなくルールを作ってはいるが、あまり厳密ではない。

現実から世界を広げるノンフィクションにハマる

積み上がった本の内容も実に多様だ。友人から薦められて読む本も多いというが、新聞や雑誌の書評を見て興味が広がり、その分野の本をまとめて買うことも多い。そして、自分が読んで気に入った本は数冊購入し、友人に配るのだという。今回本棚から推薦いただいた本は意外にもノンフィクションばかり。理由を問うと、こう答えてくれた。

「もともとは物語が大好きで、自伝やノンフィクションって興味がありませんでした。でも、漫画を描くようになって物語にあまり没頭できなくなって。その代わりにノンフィクションを読みだしたら止まらなくなったんです。内容も面白いんですが、それを読ませる文章力も見ものです」

#MeToo運動の発端となったジャーナリストによる告発本、ホラーの名手スティーヴン・キングの自伝風の文章読本、原爆で同級生を亡くした著者による渾身のルポ、女性皇族で初めて博士号を取った人物の留学記、アパルトヘイト時代の南アフリカに生まれたコメディアンの自伝。書かれた国も時代も状況も様々だが、歴史やニュースの出来事が著者の情熱と筆力で立体的になる。こうした幅広い知見が今後の漫画にも反映されていくのだろうか。

漫画家・ほしよりこの自宅ダイニング
ダイニングの棚。猫村さんのフィギュアは旅で手に入れた小物や器とともにディスプレイされ、実用本や雑誌が並ぶ。