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時を超えて愛される木造大浴場。名湯の宿〈法師温泉 長寿館〉

木造の美しい佇まいは、時を経て一層磨かれる。そこには宿の歴史を支える代々の物語があり、温泉がいつの時代も見守り続けている。
初出:BRUTUS No.858『温泉♡愛』(2017年11月1日発売)

photo: Mina Soma / text: Akiko Nokata

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法師温泉 長寿館(法師温泉/群馬県)

時を超えて愛される木造大浴場
生まれたての温泉に出会う喜び

新潟県境に近い群馬県三国峠の山麓、標高800mの谷間に、温泉ファンに愛される一軒宿がある。三国街道から県道を進み約5km。どん詰まりに杉皮葺きの木造屋敷が見える。明治8(1875)年築の本館で、宿の創業と同じ140年余を刻む、国の登録有形文化財でもある。

名物の木造浴舎「法師乃湯」も文化財だ。こちらは明治28(1895)年の建築で、鹿鳴館風のアーチ窓の和洋折衷様式。浴槽は4つに分かれ、温度を違えている。時折、湯面に円を描くのは、湯底から湧き出す源泉。あちこちでぷくぷくと湧き上がっている。泉質はカルシウム・ナトリウム-硫酸塩泉。鮮度抜群で、ふかふかとしたなめらかな肌触りだ。

〈法師乃湯〉は1982年、国鉄“フルムーン”のポスター・CMの舞台となり有名に
〈法師乃湯〉は1982年、国鉄“フルムーン”のポスター・CMの舞台となり有名に。

「法師乃湯」は混浴だが女性時間がある。与謝野晶子が「山乃いでゆ乃丸太のまくら」と詠んだ湯船の木に身を預け、梁が走る天井を見上げた。胎内を思う不思議な安らぎ。

創建時からある浴舎の梁を補強するために、地元の大工が昭和40(1965)年に横に2本の梁をかけ、10年後にその息子が縦2本を加えたという。そんな話を岡村国男常務に教わり、感動を覚えた。家業を継ぐことは、そこに関わった人々との縁も引き継ぐことだとも感じた。

法師乃湯を踏襲し、平成に誕生したのが「玉城乃湯」。こちらは総檜製である。銘石の露天風呂を備え、紅葉が見事だ。

客室は時代ごとに4棟(本館、別館、薫山荘、法隆殿)あり、すべて木造。文化財への申請は、7代目の若主人・岡村建さんが行ったという。「お客様は文化財に泊まれる、と喜んでくださいます。家族や社員とは歴史の館を預かる喜びや責任を共有しています」と。

時を重ねるほどに風格を増す木造浴舎。温泉はもちろん、建物とそれを磨く人たちに会いたくて、旅人は再訪するのだ。

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