短いのに怖い。たったの数分で恐怖へ誘うホラーショートフィルムの世界

text & edit: Emi Fukushima

数分~十数分で尾を引く恐怖へ誘うホラーショートフィルム。YouTubeなどを中心にあまたの作品が登場するなか、自らも短編ホラーの製作に携わるプロデューサーの林健太郎さんと、海外作を掘り起こし続けるDIZさんが魅力を語った。


本記事も掲載されている、BRUTUS「もっと怖いもの見たさ。」は、好評発売中です。

Share

DIZ

そもそも私がホラーショートフィルムにハマったのは『Curve』がきっかけでした。急勾配の壁面に取り残されて、奈落にずり落ちそうな女性の恐怖が収められていて。

林健太郎

あの作品はDIZさんがXで紹介して一気にバズりましたね!

DIZ

10分に満たない映像でこんなに緊張感を得られるのかと衝撃でした。短編は前後の説明が省かれる分、海外作品でも状況に入り込みやすい。そこが怖さを増す要因なのかなと。

逃げようのない絶望感が怖い

『Curve』(10min.)
監督:ティム・イーガン/YouTubeチャンネル『Short of the Week』より
女性が目覚めたのは、一寸先に暗闇の奈落が広がる急勾配のコンクリート面だった。「呼吸を忘れてしまうほどの緊張感と絶望感は衝撃的。以来ショートホラーを積極的に追うように」(DIZ)

特に最近はハイクオリティな作品が増えていますよね。短尺のホラーは、低予算でもアイデア次第で尖った映像表現に挑めるのが面白い。

DIZ

尖ったアイデアといえば、最近YouTubeで見つけた『THE SPIDER』はすごかった!青年がクモに嚙まれてヒーローになるのが『スパイダーマン』ですが、本作は彼がヒーローでなくモンスター化する世界線を描いたホラーで。公開2ヵ月で500万回以上再生されています。

ヒーローと表裏一体の怪物が怖い

『THE SPIDER | HorrorSpider-Man Fan Film』(9min.)
監督:アンディー・チェン/YouTubeチャンネル『locustgarden』より
クモに嚙まれたことで特殊能力を持った青年は、恐ろしい怪物に。「コメント欄では『スパイダーマン』ファンの考察も活発」(DIZ)

映像のクオリティも高い……、ファンムービーの域を超えてますね。アメリカでは新進監督が短編の成功を布石に、長編に挑戦する機会を得る流れもできていて。最近だと17歳の監督が個人製作した『The Backrooms(Found Footage)』がYouTubeで反響を呼んで、A24と組んで長編化されることになりました。

身近にあるかもしれない異空間が怖い

『The Backrooms(Found Footage)』(9min.)
監督:ケイン・パーソンズ/YouTubeチャンネル『Kane Pixels』より
撮影者は突如、出口のない異空間に送り込まれる。「身の回りにも壁を1枚隔ててこの空間が広がっているのではと想像させられる」(林)

DIZ

ショートフィルムにはビッグになれるチャンスがあるんですね。国内で特徴的な流れはありますか?

作り手が多様化していることでしょうか。テレビ発の監督や学生チームなど、いろんなタイプが登場しています。コント師のYouTuber、kouichitvの『消えない』は、怖さと笑いが共存していて新感覚でした。

ずっと居続ける髪の長い女が怖い

『消えない』(12min.)
監督:コウイチ/YouTubeチャンネル『kouichitv』より
SNS映え写真を求めて廃墟を訪れた男を待っていたのは髪の長い女だった。「画はしっかり怖いのに、彼女があまりにも消えなくて面白くなってくる(笑)。恐怖と笑いは表裏一体だと思わされる」(林)
©埼玉県/SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ

DIZ

これ、サムネイルが怖くて躊躇(ちゅうちょ)してました。笑えるんですか⁉

きちんと怖いんですが、あまりに幽霊が居座り続けて笑えてもくる(笑)。日頃笑いを追求している人ならではの作品だと思います。あとJAMES WEBBという20代の映像製作チームも注目です。国内ではモキュメンタリー全盛の昨今ですが、彼らは冷淡かつ不気味な質感を、独自路線の画(え)作りで構築しています。

DIZ

へ〜、すごく面白そう!

学校に佇む不気味な存在が怖い

『Perspective』(18min.)
監督:木村響、吉岡一靖/YouTubeチャンネル『JAMES WEBB』より
女子高生たちの日常に、不気味な存在がにじり寄る。「学校生活にじわじわと影を落とす不穏な空気感が表現された作品。20代の若い製作陣ながら、クラシカルなJホラーのにおいも」(林)
サムネイル撮影:ワタナベタスク/レタッチ:長谷川諒

やっぱりJホラーという特異なカルチャーがあるので、国内ではそれを現代的に昇華させて、日常に潜む怪異を描く作家が多い印象ですね。

DIZ

海外の作品はとにかく“バズる”を念頭に置くからか、かなり現代的なモチーフが多用されます。例えば、『Kalley's Last Review』の主役は化粧品のレビューをするインフルエンサー。美しくなりたい気持ちの末に訪れる恐怖がリアルです。

美しさへの執着が怖い

『Kalley’s Last Review』(9min.)
監督:ジュリア・ベイリー・ジョンソン/YouTubeチャンネル『ALTER』より
化粧品のレビューをする女性インフルエンサーの肌に起こる異変。「美を追い求める気持ちが引き寄せてしまうリアルな恐怖。最後はグロくて観るのが辛かった!」(DIZ)

サムネイルが怖い……!

DIZ

まさにサムネのインパクトも海外作品の特徴かも。そこに重きを置きすぎて、正直、出落ち感のあるものも少なくないです(笑)。

でもある意味、出落ちやハズレすら愛せるのがショートホラーの魅力なのかもしれないですよね。

DIZ

たしかに、短いからこそ失敗を恐れず色んな作品に挑戦できる。

ハズレがある分、良作を掘り当てた時の喜びもひとしおなんです。

他にもある、ホラーショートフィルム

得体の知れない箱の中身が怖い

『Other Side of the Box』(15min.)
監督:ケイレブ・J・フィリップス/YouTubeチャンネル『ALTER』より
カップルは、家を訪れた旧友から謎の小包を受け取る。目を逸らしてはダメだと言われた2人だが——。「説明のなさが想像を搔(か)き立てる。一見シュールだが、最後はきちんと怖い」(DIZ)

限界を超えた人間が怖い

短いのに怖い
『ENOUGH』(2min.)
監督:アンナ・マンツァリス/Vimeoアカウント「Anna Mantzaris」より
ある者は会議中に叫びだし、ある者はバスの中で迷惑な客をビンタする。「人間が限界を超えたさまざまな瞬間を断片的に映し続ける作品。怪異はないが人間の怖さを感じて陰鬱に」(林)

“幸せの象徴”の凶暴化が怖い

『Mickey Mouse』(4min.)
監督:アレックス・マガーニャ/YouTubeチャンネル『ACMofficial』より
夜中に口笛を吹きミッキーを召喚する「ミッキーマウスチャレンジ」に挑戦した女性を襲う恐怖。「幸せの象徴であるミッキーがホラーアイコン化していることにワクワクする」(DIZ)

些細なことで壊れる日常の脆さが怖い

『失われた朝食/The lost breakfast』(7min.)
制作:キューライス/YouTubeチャンネル『Q-rais Channel』より
毎朝ルーティンをこなす主人公。ある日、ひょんな出来事から秩序が乱れる。「人間の生活がいかに壊れていくかを表した不条理劇。自分の日常が脅かされる怖さを想像してしまう」(林)

ライトのオン/オフが怖い

『Lights Out』(3min.)
監督:デイヴィッド・F・サンドバーグ/YouTubeチャンネル『ponysmasher』より
ある夜女性の元に、ライトのオン/オフに応じて恐怖が近づく。「セリフは一切なくソリッドな表現が持ち味。成功した本作を原案に、監督自身の手で長編化もなされた」(林)

クリーチャーのビジュアルが怖い

『Momo – The Pool』(3min.)
監督:ジヤ・カプール/YouTubeチャンネル『JiyaKapur Films』より
プールの底にバケモノを見つけた男性は、捕まえようとするが。「短編でよく題材となるモモというクリーチャー。Xでモモの作品を写真付きで紹介したらフォロワーが300人減った」(DIZ)

少年たちを襲う不条理な悲劇が怖い

『fauve』(16min.)
監督:ジェレミー・コント/Vimeoアカウント「Jeremy Comte」より
田舎町でふざけ合う仲良しの少年2人組。彼らを不条理な悲劇が襲う。「自分が今まで観た短編の中で一番恐怖を感じた作品。少年が究極の選択を迫られる。前情報なしで観てもらえたら」(林)

説明されない怪異が怖い

『椅子』(15min.)
制作:in-facto/YouTubeチャンネル『in-facto』より
部屋に案内されたカップルは、管理人からテーブルの上の椅子を絶対に下ろすなと注意を受ける。「監視カメラ風の映像で何かに取り憑(つ)かれたカップルを淡々と見せる。説明されないことがやっぱり怖い」(林)

親の歪んだ愛情が怖い

『マイリトルゴート』(10min.)
監督:見里朝希/YouTubeチャンネル『Tomoki Misato』より
オオカミに食べられた仔ヤギを助け出す母ヤギ。だが長男が見つからない。「虐待という社会課題を真正面から描いた作品。フェルト人形のストップモーションアニメ史上最もダークともいえる」(林)
©2018 Tomoki MISATO / Tokyo Univercity of the Arts

女学生の表情から透ける悪夢が怖い

『大学での出来事/Incident at school』(24min.)
監督:ジェイコブ・トーマス・ピルガード/デンマーク/2020年/銃を持った男が大学を襲撃。女学生は講堂に隠れる。「恐怖の一部始終を主人公の表情だけで表現。現実の事件を疑似体験させられる」(DIZ)

もっと怖いもの見たさ。バナー