ラーメンズ、Aマッソetc. 放送作家・白武ときおが解説する、8つの不気味なコント

text: Honoka Saito

怖いコンテンツは「ホラー」と名のつくものばかりではない。お笑いにも、不気味な瞬間は唐突に訪れる。ベテランの名作から若手の話題作まで、YouTubeで観られる8つのコントの怖さを解説。

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不穏なコントが怖い

病院やお葬式のような、普段は笑うことが許されないシチュエーションで意外な展開が起こると、緊張が緩和されて、笑ってはいけないけど思わず笑ってしまう。

緊張と緩和によって感情を揺さぶるという点で、実はホラーとお笑いのコントは似ています。そして、笑いへのフリとなる緊張が過剰になると、コントはホラーに接近するのです。

歴史を辿ると、千原兄弟さんの『ダンボ君』、バナナマンさんの『ルスデン』、ラーメンズさんの『採集』は、三大怖いコントとして語り継がれる名作。『ダンボ君』は、男が頭に段ボールを被せられ、いたぶられているビジュアルがとにかく不気味。

『ルスデン』は深夜に帰宅した男が38件の留守電を再生することで、友人に起こった事件を追いかけていくという、構成自体が画期的で秀逸なコント。そして『採集』は、同級生2人の久しぶりの再会から始まり、片方がだんだんと疑心暗鬼になっていく一人芝居が圧巻の名作です。

ラーメンズ『採集』
追い詰められる一人芝居が怖い。/地元の体育館に忍び込んだ東京で働くプリマと、地元で理科の教師をしている同級生のジャック。ジャックの趣味は動物の剥製をつがいで作ることで……。途中コントはプリマの一人芝居に移行。一人の空間であらゆる可能性に気づき、追い詰められていく。「永遠に観ていられるような演技力と、緊張と緩和が連続する構成が圧巻」

近年では、巧みな構成で展開し最後にゾッとさせるのが、あばれる君『妻へのプレゼント』やトンツカタン『気づいて』、フランスピアノ『浮気』。ホラー要素と革命的なシステムが印象的なそいつどいつ『パック』などが挙げられます。

あばれる君『妻へのプレゼント』
異常な記憶が怖い。/妻へのプレゼントを買いに洋服店を訪れた夫。コーディネートを一式選んだがサイズがわからず、妻との楽しかった記憶に思いを巡らすことでサイズを思い出そうとする。しかしその記憶はどれもおかしさを孕(はら)んでいて……。「一人で演じ切るピン芸人だからこそ人物の異常性が際立っている」
トンツカタン『気づいて』
平然と進んでいく会話が怖い。/公園で読書をしていると、カップルが隣のベンチに座り、イチャつき始める。「今日の私、少し変わってるの気づいてる?」。その変化とは信じられないものだった。「鋭いツッコミが武器の森本が一切言葉を発さずリアクションだけで展開させている。最後は全く違う角度から衝撃のオチが」
フランスピアノ『浮気』
サイコな伏線回収が怖い。/家に夫がいない間に浮気をしていた妻。浮気相手を押し入れに隠れさせている様子を早く帰ってきた夫に完全に見られてしまう。夫はいつもと変わらないような振る舞いで、次第に妻を追いつめていき……。「最後の最後にゾッとする伏線回収が。怖さと上品さを兼ね備えたコント」
そいつどいつ『パック』
妻のいたずら心が怖い。/家に帰ると妻がフェイスパックをしていた。パックをした状態で不気味な動きをすることで驚かそうとしてくる妻に夫は辟易する。パックを取ってほしい夫と取りたくない妻の攻防戦は思わぬ展開に。キングオブコント2021の決勝で披露し、客席からは悲鳴混じりの笑い声が上がったコント。

また怖いコントは初期衝動的に作られることも多く、あまりに過激なネタはテレビではなかなか放送されません。特に売れるとそのようなネタを披露する機会は、強い意志で確保しないと次第に減っていく傾向にあります。

しかし今は多くの芸人がYouTubeチャンネルを持っているため、Aマッソ『紙媒体』や、サツマカワRPG『練習』、吉住『どっちが異常?』のような、彼らの世界観が稀釈されることなく反映されている、ホラーともとれるコントも観ることができます。

Aマッソ『紙媒体』
紙への執着が怖い。/スーパーで買い物をしていた主婦を拘束した誘拐犯。その目的はデジタル化が進むとともに忘れ去られそうになっている「紙媒体」を“買って”もらうためだった。緊迫したストーリーの節々にセンスの光るフレーズがちりばめられている。「これを人前でやろうと思ったAマッソに対しての怖さもあります」
サツマカワRPG『練習』
プロポーズの先が怖い。/一人でプロポーズの練習をする男。その練習は彼女の返答も想定しながら淡々と進む。プロポーズが終わった後もなぜか練習は終わらず、次第にあらぬ方向に……。「気づかぬうちに違うものを見せられている、すり替えられたような感覚。この多元的な見せ方はサツマカワならでは」
吉住『どっちが異常?』
いびつな恋心が怖い。/「彼女がいる」と告白を断られてしまった女。しかし諦め切れずに彼をストーキングしてみると、彼に彼女などいなかったのだった。「吉住さんは目のつけどころの意地悪さと高い演技力が魅力。実際にいそうだと思わせる気味の悪いふにゃふにゃとした独特な動きや声の震えに引き込まれる」

今回挙げたもの以外でも、単独ライブやYouTubeなど、芸人の脳みそをそのまま出力できるフィールドを覗いてみれば、きっと不気味なコントが見つかるはずです。

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