名ホラーキャラたちは、これまで数々の死体の山を築いてきた。人間を殺(あや)める残忍性もさることながら、強靱な肉体が備わっているヤツも多い。誰が一番強いのか、早速トーナメント形式で競わせていこう。1回戦は『ヘル・レイザー』のピンヘッドとキャンディマンの対決から。
「奇(く)しくも、両方ともイギリス人作家、クライヴ・パーカーが書いたキャラクターだね。まず、ホラー小説や映画では、都市伝説がヒントになってキャラが生まれるケースがある。映画『キャンディマン』の物語とは直接関係ないけど、キャンディマン自体のベースはカップルの乗った車を襲う『鉤爪男』という伝説がモチーフ。
一方のピンヘッドはセノバイト(魔道士)。ボンデージ衣装に身を包み“究極の快楽は痛みだ”と作者のSM嗜好が全開になっている(笑)。と同時にヨーロッパの神話や寓話からもアイデアを抽出し、血まみれの暗黒神話を作り出した。2人とも魔物だけど、キャンディマンは、ホラーキャラとしてはいまいち弱い。でもピンヘッドが街を歩いていたら相当怖いと思う。たとえ知り合いでもなかなか近寄りがたい。だからこの魔物対決、歴史と実績からピンヘッドが勝つだろうね」
続いては『13日の金曜日』のジェイソンvs.『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』のペニーワイズ。老若男女にご贔屓(ひいき)筋を持つスーパースター同士の対決だ。
「“子供”をエネルギーにする2体だね。ジェイソンは幼少期に受けた悲しい出来事を力に変えている。健やかに大人になれなかったから、ちょっと背伸びしたティーンエイジャーが気に食わないんでしょうね。ジェイソンが沈んでいるクリスタル湖まで、チャラついた高校生たちがサマーキャンプへやってくる。カップルはいちゃつくし、麻薬を嗜(たしな)むヤツまでいて。そりゃ頭にくるでしょう。トム・サヴィーニによる特殊メイクにより、ぐさっと顔面(しかも女子)に刃物が入る。ここまでグロテスクなシーンは、この映画が初めてだと思う。
一方、ペニーワイズは幼子たちのトラウマを吸って、自分の力に変換する怪物。幻視を使う能力に長けていて、優しく繊細な子供たちの心につけ込み、恐ろしい幻覚を見せ、恐怖に突き落とす。その様子を不気味な笑みで見つめるさまは、本当の表情(心理)が読み取れないことを恐怖に感じるクラウンフォビア(道化師恐怖症)を応用している。でも逆に“僕は負けないぞ!”という、気合の入った心の強い子にはやられちゃうことも。そういう意味で、裸一貫で上り詰めてきた肉体派のジェイソンには、小ざかしい心理戦は通じないんじゃないかな」
予選最後は『エルム街の悪夢』のフレディ・クルーガーと『ハロウィン』の“ブギーマン”ことマイケル・マイヤーズの刃物使い対決。
「ホラーの物語やキャラクターは、必ず土地や文化に紐づいていて。フレディとマイヤーズは両方とも、アメリカ人にとっての黒歴史や風習がもとになっている。まず、エルム街というのは、ケネディ大統領暗殺事件の現場でもあって、いまだにその名前を聞いただけで、辛い気持ちになる人もいる。
そしてハロウィンは、本来ケルト人が起源の祭り。キリスト教系からは忌み嫌われているものなんです。その中から出てきた2人は、ルックス的には最高で、見るからに怖いので、甲乙つけがたい。しかし、マイヤーズが暴れまくるハロウィンは年に1度。10月31日は国外へ脱出するなど、逃れる手段がある。それに比べ、夢の中で活躍するフレディは寝るたびに攻撃してきます。フレディには物理的な攻撃が効かないこともあり、この勝負はマイヤーズに勝ち目がないんです」
映画化された2体の攻防を改めて考えてみる
キャラクターたちの個性やパワーをそのバックグラウンドから引き出しつつ、強引にトーナメントは進んでいく。3強の中から、魔道士・ピンヘッドをシード選手とし、まずは映画化もされた『フレディVSジェイソン』に再戦してもらう。
「フレディは、そもそも連続幼児誘拐殺人事件の犯人という、決して許されざる人物。なぜか釈放されたところを、被害者家族たちから焼き討ちされ、そこから這い上がってきたため火には強い。一方のジェイソンは、幼少期のいじめがエスカレートする中、クリスタル湖に落とされ、そのまま行方不明になってしまう。つまりこの2体は、火と水の対決になるというわけ。そして、フレディの主戦場は夢の中だけど、ジェイソンは多分寝ないタイプ(笑)。長期戦にはなれど、フレディは湖の藻屑になるでしょう」
ジェイソンの魅力はもはやアイドル級。応援したいところだが、決勝の相手は魔道士のトップ・ピンヘッド。さすがに勝ち目はないか……。
「一つだけジェイソンに勝機があるとすれば接近戦。ピンヘッドを捕まえた時だね。普段は魔術や道具を使って人をもてあそぶピンヘッドだけど、肉弾戦は見たことがない。ジェイソンは多少四肢を切り刻まれても、痛点がないのか平然としているし、いつの間にか復活していることもある。
隙を突き、ピンヘッドの懐に入ったら、まず顔のピンを全部抜くと思うんだよね。そうなればボンデージを着たただの色白のおじさんになるから、簡単に仕留めることができる。見事にジェイソンの勝利。平民が上級国民に勝利したみたいな、とても清々しい気持ちです!」