完全復活を果たしたアートシーン
香港では毎年3月はアート月間としてアートフェアなどで盛り上がりを見せていたが、パンデミック中の渡航制限やホテル隔離の影響でここ数年は不透明な状況に。しかし、今年は入国制限の大幅な緩和によって海外からのギャラリー関係者や来場者も多く、香港でのメインアートフェアである「アート・バーゼル」では、去年の133ギャラリーに対して、今年は32カ国から177ギャラリーが参加し、スペースも香港コンベンション&エキシビションセンター(HKCEC)の2フロアへと回復。3月1日にマスクの着用義務も廃止されたことも相まって、街全体からも正常化に向かうエネルギーが溢れ、会場には5日間で約86,000人が訪れて2019年以来の“復活”を感じさせる盛り上がりを見せていた。
ロンドンのギャラリー、〈Union Pacific〉の共同ディレクターによると、初日に出店作品がすべてソールドアウトになり、また香港のギャラリー〈Ora-Ora〉では、「Aリストのクライアント(上顧客)が全員戻ってきた」と、香港が国際的なアート業界の重要な場としての役割を果たしていることを改めて実感させた。
香港でアート熱が加速している理由とは?
2019年にはビクトリアドックサイド地区に世界的なアートの数々が店内で展示されるハイエンドのショッピングモール「K11 MUSEA」が誕生し、去年は20・21世紀の視覚文化をテーマにしたアジア初の大型美術館「M+」もウエストカオルーン地区にオープンするなど、街の主要箇所でもアート機運が高まっている今の香港。なぜこんなにも香港は勢いがあるのだろうか。
実は、ウイスキーメイカーの〈マッカラン〉もまたこのムーブメントをサポートする企業の一つなのだが、マネージング・ディレクターのハイメ・マーティン氏は、香港をカルチャーのハブとして成長させようとする中国政府の計画とともに、アートやクリエイティブをサポートするローカルの富裕層のパワーがその立役者だという。
「K11もアート財団がありますし、ファッションにおいてもイギリスのヴィクトリア&アルバート博物館と組んでファッションエキシビジョンを「K11 MUSEA」で展開したり、“メトロポリタン美術館のメットガラのアジア版”とも言われる「K11 Night」も開催して、シーンを盛り上げようとしています。K11創設者のエイドリアン・チェンはまだ40代頭で、彼のような若い世代がアートやファッション、デジタルなどの境界線を押し広げ、香港を次のステージに導いています。また、「Design Trust」という非営利団体も都心エリアをストリートアートやデザインなどで再開発しようとしていて、先日フィリップスのオークションで1.2 million USD(約1億5,792万円)の助成金の資金調達をしていました」
圧倒的に増えている女性エグゼクティブたち
さらに、香港の今のアートシーンのキーフィギュアは女性たちがとても多いと続ける。
「例えば、『M+』のミュージアムディレクターはスリランカ出身のスハーニャ・ラフェルですし、「Design Trust」の共同創設者はマリサ・ユウ、またアート・バーゼル香港のディクレータもアンジェル・シヤン・ルーと皆、女性です。これは新しい動きですし、まさに香港がいかにプログレッシブかということも示していると思います。いつだって香港は多様性がありオープンな街ではありますが、“ダイバーシティ”“アートやカルチャーへのサポート”、また“女性の存在がしっかりと位置づけられていること”、こういったファクトがあるからこそ、今、香港が改めて注目されているのだと思います。そしてそれはマッカランとも深く共鳴します。私たちのマスター ウイスキーメイカーにもクリスティン・キャンベルという女性がいて、彼女は世界で数百本ずつしか生産されていない貴重な『レッドコレクション』の77年を担当しているキーパーソンなんですよ」
逆境を経て、さらに強固なアートシーンを生み出していることを世界に知らしめた香港のアートシーン。アート・バーゼルの会場でもグローバルシーンで肩を並べる世界的なアートが数々展示され、それを見に来る幅広い世代の人々で圧倒的なエネルギーを放っていた。今後も空港含めた都市開発が進み変わり続ける香港の街と、そこから生まれるアートシーンから今後も目が離せない。