Visit

岡本仁が語る、旅と本屋。新潟へ

旅先で本を買うことほど愚かなことはない。何故なら荷物を軽くするのが旅の鉄則だから。なのに、移動の疲れを癒やそうと入ったコーヒー店に、本(売り物)が山積みされていたらどうする?まるで自分の本棚みたいに趣味が合っていたら、手に取らずには帰れないよね?

Photo&text&edit: Hitoshi Okamoto

新潟

ぼくの脳内地図では、高松と新潟は地続きになっている。新潟駅でタクシーを拾って最初に向かう〈ブックス エフサン〉の店主・小倉快子さん(オグラちゃん)が、高松に住んで男木島の写真を撮っていた頃からの知り合いだからかもしれない。

彼女は高松北浜の〈ブックマルテ〉の品揃えを、写真集中心にしましょうと提案した人でもある。オグラちゃんが郷里に戻って自分の店をオープンしてから、もう4年になるというのに、ぼくはまだ3回(2回かもしれない)しか行けていない。

でも、カウンター席でコーヒーを飲みながら彼女と話す時間はかなり長いと思う。まず写真や写真集に興味を持ってもらうことが第一義と考えていることが、よく伝わる。店内での写真展もまもなく30回になるそうだ。このカウンターでコーヒーを飲んでいた学生が、いまは高松に住み、写真を撮りながら〈ブックマルテ〉で働いていることも脳内の地続き感を高めている要因だと思う。

〈ブックス エフサン〉があるのは沼垂というエリアで、自分の行動エリアは古町が中心だし、いつも泊まるホテルも古町にあるので、信濃川に架かる萬代橋を歩いて渡る。欄干の低さに驚くが、この低さが橋全体を優美なものにしている要なのだと、歩くとすぐにわかる。

昼ごはんをまだ食べていなかったので、バスセンターの中にある〈万代そば〉に行き、カレーのミニを注文。新潟の話になると、必ずここが挙がるほど、地元の人に愛されている立ち食いの名店だ。

手に入れたばかりの『レター・フロム・ブックス・エフサン』を読みたかったので、上大川前通の〈シャモニー〉へ。この店にはJBLのパラゴンというスピーカーがある。工藝品と呼びたくなるスピーカーの前の席に座れたら、それだけで上機嫌になる喫茶店で、オグラちゃんがこの街で何を伝えたいのかを噛み締めながらバックナンバーを熟読する。

次の目的地〈北書店〉の佐藤店長に会う前に寄りたい店が2軒あるのだが、1軒は夏休みで、もう1軒はお店を閉めてしまっていた。佐藤店長のところにもう少し遅い時間に到着したかったのは〈北書店〉の近くにある〈千福〉という居酒屋の開店時間から逆算したからだが、久しぶりに会った店長との話もはずみ、ちょうど良い時間になった。

それにしても佐藤くんのスパッとした物言いは、相変わらず気持ちがいい。佐渡島に〈南書店〉をオープンしたそうだが、〈カフェ日和山〉に併設されているそこへ行くのが、ぼくが初めて佐渡島に渡る日になるだろう。

オープン直後の〈千福〉で佐藤くんと一緒に飲みたかったが、閉店時間まで待つことができず、ひとりで刺身の盛り合わせとビール。そこからタクシーで〈喜ぐち〉という居酒屋へ。こちらでは夕食のつもりでタレかつ丼を。書店店長とつい話し込んでしまう街が、ぼくの新潟だ。