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ポケモン GO、マクドナルドetc.話題を生み続ける仕掛け人、足立 光に学ぶ。心を動かすマーケティング思考

世の中に認められるようなことを成し遂げるための一番の近道はマーケティングを学ぶことです。マーケティングは、あらゆる仕事に役に立つ普遍的スキル。ファミリーマート、ポケモン GO、マクドナルドなどを渡り歩き、数々のヒットを重ねてきた、マーケター・足立光さんに、人の心のツボの押さえ方をテーマに、マーケティング思考を学びます。

photo: Jun Nakagawa / text: Junya Hirokawa

数々の話題を生み続ける“仕掛け人”による特別授業

マーケティングが何かというと、それはビジネスそのもの。商売に必要なことをすべてやるのが、マーケターの役割です。自分にとってのマーケティングは3つに分解できます。1つ目は、何かをコミュニケーションして、結果的に人の行動を変えること。これが最も大きな存在意義。2つ目は、プロジェクトを動かして目標を達成すること。マーケターの仕事の8割は、企画ではなく、その実行、実現です。3つ目が、仕組み化。再現性を備えることで成功を継続させることが重要です。

3つのうち、どれか1つ、2つをやればいいのではなく、3つが揃って初めてマーケティング。といっても、やるべきことは明確で、どうやったらお客様の行動を変えられるかを考えて、様々なパターンを試してみる。その中で、再現性が高い手段を選んでトライしていくだけです。

自分には関係ないと感じる人もいると思いますが、例えば、企業の人事部の採用活動も、マーケティング。人材採用という目標に対して、何を伝えることで、応募者数をいかに増やすのか。そのための仕組みを考える必要があります。マーケティングと全く関係ない仕事は、ほとんどないと思ってください。

そして何よりも、買い手のツボを押さえるということがマーケティングには必須なのです。私自身、社会に出て、初めて世の中を動かすツボを押した体験が、世界最大の日用消費財メーカー、P&Gの韓国赴任時のキャンペーン。当時、韓国で低迷中のパンテーンというヘアケア商品はグローバルの「14日間で髪を美しく」というコピーを使っていましたが、韓国では、パンテーンを使えば「もう枝毛を切らなくていい」に変更。

14日も先のことは想像しづらい。ダイレクトに“何かをしなくていい”というコピーの方が届きやすいです。ツボを押すには、ロジックよりもエモーション。商品はそのまま、コミュニケーションを変えて売れた初の経験でした。パンテーンでもう一つ、来店されたお客様の髪の毛を、顕微鏡で拡大して、実際の髪のダメージを見せてあげると、商品に手が伸びる。現実を目にすると伝わり方が違います。ツボは、わかりやすさを心がけることです。

2023年も行ったファミリーマートの「40%増量作戦」もそう。とにかくパッと見た時のわかりやすさ&ボリューム感の組み合わせが大事です。

アイデアは組み合わせ。遠い世界の要素を混ぜる

多くの人にとって、ツッコミどころのある商品は、ついつい気になってしまいます。ツッコミやすいということは、受け手を巻き込みやすいということ。お客様が能動的に動いてくれるだけで、キャンペーンとしては半分成功したようなものです。

2015年、マクドナルドに入った時に、「名前募集バーガー」や「マクドナルド総選挙」といったキャンペーンを実施。「自分ならどんな名前にするか」と考えてもらえる。「そもそも商品名を募集するって!」というツッコミもSNSでは多く見かけましたね。

思いがけない出会いというものにも、人は弱いです。偶然欲しいものを見つけると、購買意欲は一気に高まります。ファミリーマートのアパレルライン「コンビニエンスウェア」もその発想で展開しています。一流のデザイナーがデザインした商品が偶然寄ったコンビニに売っていれば欲しくなりますよね。

“日常”というのも大事な要素です。特別なアクションをするよりも、日常の延長で使ってもらうというのは、お客様とのコミュニケーションのキーになります。

ブームが落ち着きつつあった『ポケモン GO』を担当した時は、ターゲットを、「プレーしたことがあるものの離脱してしまった人」など、ライトユーザーに再定義。散歩や旅先での利用を促す施策をしました。この時考えたのは、どんなツボを押すかではなく、どんな人のツボを押すか。まだ押され慣れていない人を対象にした方が、反響が大きくなるんです。

コミュニケーションの少なさも、もう一つのツボです。特に感覚でわかるものは、言葉で味わいの説明を尽くすよりも、プリングルズの味、森永のキャラメル味、の方が、圧倒的に消費者とのコミュニケーションが効率的です。お客様もわかりにくいと離脱しちゃいますよね。コラボ商品はわかりやすくて、それ自体も話題になるし、コラボレーション相手のファンに認知が大きく広がります。

何より重要な視点は、人の心を動かせるかどうか

そして、最後のツボとしては、 “いいこと”は、人の心にダイレクトに届くということ。今、企業だってイメージが大切な時代になっています。何か買うなら、いい会社、応援できるところにお金を払いたいですよね。一昔前と比べて、多くの領域で、商品やサービス自体にはほとんど差がつかなくなっています。だから、何を買うか以上に、どの会社から買うかがとても重要な要素になりつつあるのです。

成功話ばかりしていると、まるでアイデアマンのように思われることがありますが、実は私は、アイデアマンでは全くありません。パンテーンで顕微鏡を使ったのは、顕微鏡を使って肌を見るという、日本の百貨店のコスメコーナーで実際に行われていることから得たアイデア。マクドナルド総選挙も、AKB48の選抜総選挙を参考にしたものです。普段から、自分とは異なる業界を見るようにして、そこで「何が売れているか、流行っているか」を把握し、「これを自分の領域で展開できるか?」と考える癖をつける。それが、世間のツボを押すのに欠かせません。

さらに言えば、情報を組み合わせて、新たな価値を備えたアウトプットを生み出すには、インプットの量と多様性も必要です。新聞なら、日経新聞に加えてほかの全国紙を読む。SNSなら、XだけじゃなくてTikTokも使うように、できるだけ幅広いソースから情報収集する方がいい。

人に会って話すのもいいですよ。仕事とは関係のない、違う世代、違う国の人に会う。自分の知らない世界を垣間見ることで、何がウケるか、わかるようになってきます。

もちろん、やってみたけどほとんど売れなかったという失敗もたくさんあります。全部売れたら、それは神様じゃないですか。それでも、数年置きに新しい業界に飛び込んで、今も世の中のツボを探しています。