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ヒコロヒー「直感的社会論」:自意識や羞恥心がもとになり、失くしてしまったもの

お笑い芸人、ヒコロヒーの連載エッセイ第26回。前回の「この世界はひょっとすると、そういうことかもしれない」も読む。

text: Hiccorohee / illustration: Rina Yoshioka

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自意識や羞恥心が
もとになり、
失くしてしまったもの

散髪が苦手である。こういう毛にしてほしいという願望は自分の中にあるのだが、いざ美容師にカウンセリングをされ始めると、途端に「自分が自分の髪型について一丁前に要求をしている」ことがとてつもなく恥ずかしくなってきて「ああ、まあ、てきとうでいいです」などとぶっきらぼうに答えることに精一杯となる。

結局仕上がりを見て(クー)という思いを人知れず抱えるも「自分の髪型について一丁前に(クー)と思っている」こともあさましく思えて、家の洗面所の鏡の前で改めて、今度は声に出して「クー」と言う。私にとってはここまでがセットで「散髪」なので、辞書で散髪と引いて出てくる内容に納得はしていないのである。

以前、ニューヨークに滞在していた際、散髪にでも行ってみようかと思い立った。軽い気持ちで近所の美容室に向かえば店内は英語が飛び交い、散髪されながらハンバーガーを食べている客、散髪しながら歌っている美容師、あまりにも絵に描いたようなニューヨークの美容室すぎてやや興奮しながら席に着くと、担当美容師がやってきてカウンセリングが始まった。

髪を少し明るくしてほしい、と伝えたところで、ここでまたいつものあれが発動する。私は「まあ、でも大体のことはあなたに任せるよ」とカッコつけて伝えた。すると

担当美容師は驚いた様子で「日本人はとても要求が細かいがあなたは珍しい!ニューヨーカーのリクエストみたいだわ」と言われた。えっ?ニューヨーカー?わしってニューヨーカーみたいなん?と内心少し喜ぶも、至ってクールを装い、まあね、程度に会話を終わらせれば、そのうち眠ってしまっていた。

しばらくして肩を叩かれ、終わったよ!と言われ鏡を見れば、アメリカの強烈なブリーチ剤で髪の毛が真っ白になっている私がいた。すごく内田裕也さんみたいになっていた。絶句する私をよそに、彼女は「本当にワイルドだわ!」と言った。その通りである。

何も言えぬまま美容室を出て、女内田裕也スタイルでニューヨークを練り歩きながら、こういうばかげた自意識や羞恥心がある限り、うっかりなくしてしまうのは髪の色素だけに留まるのだろうか、と、考えながら、雑貨屋でサングラスと杖を購入してみたのであった。

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