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神宮前〈ハローテキサス〉のTシャツに綴られるのは、孤高の“物語”

アメリカのヴィンテージTシャツ一枚一枚に巡らすのは、戯れ事、はたまた哲学か?路傍のTシャツに綴られる孤高の“物語”を求めて、人はここにやってくる。

photo: Kazufumi Shimoyashiki / text & edit: Tamio Ogasawara

古いアパートの1階に見える、開かれたドア。「こっちにおいで」と呼ばれるように近づくと、〈HELLO//TEXAS〉の看板が下がっているのに気づき、ここが知る人ぞ知るヴィンテージTシャツ専門店だとわかる。

「いらっしゃい!初めて?初めて?誰に聞いた?」まくし立てるように奥の畳の部屋からもてなしてくれたのは、店主の三好智之さんだ。よほど、お客さんが珍しいのか、前のめりに足を運んだ理由を知りたがり、店への熱い思いを語り始めてくれた。

「よく来るお客さん以外が来ることなんてないから、こっちがびっくりしちゃいましたよ。15年以上店はやっていますが、このアパートに引っ越してからはさらにひどい。この通りヴィンテージTシャツだけを扱っていて、それぞれ値段も2万円とか3万円とか、“買わない”額をつけていますから。でも、“買えない”額はつけないし、その代わり、Tシャツ一枚一枚に、カードを付ける。当初の役割は、僕の語りがなくとも読めばこのTシャツを店に並べた理由がわかるような解説文。

こういったスーベニア、ノベルティTシャツってバンドや映画ものに比べたらわかりづらいものですから。価値が不明のまま、アメリカから漂ってきた40年前の庶民のTシャツについて何千枚とカードを書いていくうちに文章量も増え、最近では500ワードが基本の超短編小説となりました」

たしかに読むと文学である。Tシャツに対して、とことん調べられた形跡のある文章をベースに、三好さんの体験と湧き出る想像が絡み合う。少し以前のものは社会派エッセイのようで、見事なオチまで読むとわかるが、世の中こうあるべきという自身の思考を投影し、吠える。たかがTシャツ一枚に対する所業としては異常なまでの執念が宿り、時間にすれば1分足らずの読書で、そのTシャツが生き生きと輝いて見え始める。

「人生かけて文章を書いていますから。日々の怨念も入っています。1枚書くのに1週間かかるときもありますし、文章が書けないTシャツは基本店には出しません。書くことで魂を込めているんです。コンセプチュアルになるほどに、客足は遠のきますが、このボロくて狭い店で、日々Tシャツと向き合いながら、人生そのものを考えているんです」

〈HELLO//TEXAS〉のTシャツ文学全集から4枚

果たして、ここはただのTシャツの店なのか?わざわざ家賃を払い原宿の店というフォーマットを用いた現代アートのインスタレーションか?はたまた人生を賭した壮大なコントか?〈HELLO//TEXAS〉のTシャツは、売れないと逆に値上がりする。

こんな店、大丈夫か?と思うかもしれないが、三好さんは店をやりながら早朝から宅配便の配達員として十数年原宿界隈を回っている。その生きざまも含め、世界中のどの店よりも格好いい店だと思っている人たちに支えられて、明日も三好さんは店を開ける。物語を紡ぐ。