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少年少女の世界に、奇怪な現象が入り込んだら?“ジュブナイル”SFの魅力を解剖

家族、友達、ゲーム、漫画……様々なコミュニティやカルチャーが同列に存在し、不安定なバランスで成り立つ少年少女たちの世界。その中に奇怪な現象が入り込んだら?冒険と葛藤と青春の成長譚に大人も胸を打たれる、ジュブナイルSFの魅力を解剖。

初出:BRUTUS No.1011「夏は、SF。」(2024年7月1日発売)

text: Kentaro Okumura / edit: Neo Iida

解説する人:さやわか(ライター、物語評論家)

少年少女の心を持った、すべての人に響くもの

異世界で起こった出来事が現実の問題にも繋がっているというジュブナイルSFは、僕のような『ウルトラマン』を観て育った世代にはものすごくわかる感覚です。『ストレンジャー・シングス』にも製作側の意図を明確に感じたシーンがあって、それはシーズン2の後半。

宿敵マインド・フレイヤーを倒すためテーブルゲーム『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のマニュアルを持ってきたダスティンを、「子供の遊びだ」と一蹴するホッパー。すかさず「これはマニュアルなんだ。現実のメタファーだ」と言い返すと、ルーカスがわざわざ「いや、メタファーじゃなくてアナロジーだ」と訂正します。アナロジーというのは、構造や論理の類似性から未知の物事を推量すること。

つまり、ダスティンはゲームや作品内の規則を、現実に置き換えて考えている。フィクションから現実を捉え返すことができるんだと、物語の中で僕たちに語りかけているんです。子供たちがハマっている、大人が気にも留めないようなゲームの中に現実の謎を解くヒントが隠されている。この部分に、強くジュブナイルSFらしさを感じました。無意識と現実世界が鏡合わせであるという作品自体の設定にも対応していて、とても完成度の高いエンタメ作品だと言えます。

『ストレンジャー・シングス 未知の世界』
監督:マット&ロス・ダファー/2016年〜配信/80年代のアメリカの田舎町ホーキンスで、不可思議な現象に翻弄される少年少女の姿を描く。80年代映画のオマージュも色々。「ウィルが母親から受ける愛情と抑圧や、エルが力を使えなくなる描写などにも、思春期ならではの葛藤や成長が見られます」

世界と近所を繋げる、日本のジュブナイル作品

大人が主人公のSFでは社会情勢や人種差別、戦争といった大きな問題と向き合うものが多いですが、子供たちが主人公の場合は世界レベルの大問題が起こったとしても、自分のスケールでしか関与できません。そうしたジレンマの中で、どのように現実と折り合いをつけ、大人になっていくのか……。ジュブナイルSFに見られるこのような型は、日本の作家たちが何十年も、ある種お家芸的にやってきたところがあります。

例えば『機動戦士ガンダム』と、その影響下にある『新世紀エヴァンゲリオン』。どちらも宇宙空間を巻き込んで壮大な戦いを繰り広げる巨編ですが、根本にあるテーマは父子の関係ですよね。君と僕の関係が世界の命運を左右する、いわゆるセカイ系の代表ともいわれる新海誠のデビュー作『ほしのこえ』はセンチメンタルな恋愛を題材にしたジュブナイルSFですし、『天気の子』や『君の名は。』といった近作も基本構造は同じ。

『天気の子』
監督:新海誠/2019年公開/夏の東京で、家出をした少年は天候を操る少女と出会う。「新海作品をSFでないとする向きもありますが、それは筒井康隆がかつて語ったように浸透して拡散し切ったから。親しい者同士の関係が世界に影響を及ぼしていくジュブナイル的な青春感とSFのスケール感がある。日本では愛され、作られ続ける作品だと思います」

またセカイ系以前に登場し、近年リメイクもされたゲーム『ファイナルファンタジーⅦ』の主人公クラウドは争いの続く世界の中で、本当の自分とは誰なのかという内省的な問いを常に抱えています。ただ、こうした語り口はもはや日本だけに見られるものではありません。それを痛感させられたのが、ゲーム『Life is Strange』。友人を救うため何度もループを繰り返していると、特異点が溜まって嵐が起きる……って、これは『魔法少女まどか☆マギカ』と全く同じ話じゃないか!と(笑)。

『FINAL FANTASY Ⅶ REBIRTH』
開発:スクウェア・エニックス/2024年発売/1997年に発売された『ファイナルファンタジーⅦ』のリメイク2作目。魔晄都市ミッドガル脱出後から「忘らるる都」までを描く。「本作をプレーすると戦争の背景がより色濃く描かれていて、ガイア理論と核とサイバーパンクを混ぜたようなSF作品だなと改めて感じました。その中でもクラウドはまだ悩み続けています」
『Life is Strange』
開発:DONTNOD Entertainment/2016年発売/米・オレゴン州の架空の田舎町アルカディア・ベイを舞台に、時間を巻き戻せる女子高生マックスと、幼馴染みクロエの友情を描く。2024年10月にマックスが再び主人公になる最新作が発売予定。「人間関係でギスギスしたり辛くて闇堕(お)ちしたりなど、10代特有の描写に胸が詰まります」
『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』
総監督:新房昭之/監督:宮本幸裕/2013年公開/2011年開始のテレビシリーズのその後を描く。魔法少女・暁美ほむらは、まどかとの再会を夢見て戦い続けていた。現在、11年ぶりの最新作となる『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉』を制作中。「魔法の冠が付きながらも、少女たちの日常と、世界と、ループが絡み合うSF。展開も衝撃」

最後に友達を救うのか、世界を救うのかという展開もセカイ系そのものです。2023年にリリースされたインドネシアのインディーゲーム『A Space for the Unbound 心に咲く花』もかなりジュブナイルSFであり、日本の影響を感じられる作品。スーパーファミコン風のドット絵で描かれる物語が切なくて、泣けるんですよね。

『A Space for the Unbound 心に咲く花』
開発:Mojiken Studio/2023年発売/気鋭のスタジオが送る2Dアドベンチャー。世界終末が近づくインドネシアの田舎町で、2人の高校生が自分探しの旅に出る。「日本のジュブナイル作品で育った世代によるドット表現が魅力です」

90年代後半のインドネシアが舞台ですが、『ストリートファイターⅡ』や『ドラゴンボール』なんかにも触れられています。今グローバルで通用しているコンテンツを見ると、1990〜2000年代の日本の文化に影響を受けた世代が大人になり、面白いものを作ろうとしているように感じます。

好奇心を持ち世界を見た、10代の日々を呼び覚ます

SFはファンタジーとは違って、一定のルールや科学的な合理性をもって飛躍する。だからこそ、遡って言えば戦後からずっと、日本人はSF的アナロジーを通して直接描きづらい現実の問題を扱ってきたように思います。突拍子もないSF的な出来事が実際に起こったらどうなるのか?大変だけれど、お腹は空くし眠くなるし、電車で会社に行かないといけない。

例えばゲーム『ペルソナ3』では、主人公は夜中にダンジョンを攻略しても朝になれば学校に行かないといけないわけですよ。『ペルソナ3』の産みの親であるプロデューサーの橋野桂さんは、よく「僕たちが作っているのはジュブナイルだから」と話しています。心に10代の心を残した人全員がターゲットだ、と。

『ペルソナ3 リロード』
開発:アトラス/2024年発売/2006年に発売された人気作を、PlayStation 5をはじめとする現行ハードに対応させたリメイク版。高校生活を送る傍ら、“ペルソナ”という能力に目覚めた主人公と仲間たちの物語。「周囲との関係を築くシステム“コミュ”により青春ドラマが分厚い。細部まで作り込まれた名作です」

どんなに大変なことがあっても、卑近な現実と向き合わざるを得ないという構造は10代の生活そのものですからね。不思議なことが起こったとしても、子供は好奇心を持って日常的に対処できるし、すんなり受け入れられる。かつて一度は通ったその気持ちを呼び覚まされるから、誰もがジュブナイルSFに夢中になるのかもしれません。

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