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ハワイ・マラマの旅 〜衣編〜 アロハシャツでハワイの心を纏う

アロハシャツは誰もが知っているハワイ生まれのシャツだけど、そこに描かれているのはハワイの自然や文化なのだとあらためて気づく。アロハシャツこそ、マラマの心を身に纏うものなのかもしれない。

photo: Kuni Nakai / text: Takuro Watanabe / coordination: Ej Moriguchi / cooperation: Hawaii’I Tourism Japan

アロハシャツの歴史を辿れば

オアフ島に滞在していたある日、カフェでコーヒーを飲みながら、それとなくスタッフの動きを眺めていると、彼ら、彼女らが着ているアロハシャツのことが気になってきた。描かれている柄がハワイの自然や文化をモチーフにしつつも、和柄があったり、派手さもそれぞれで、無数にバリエーションがある。なんとなく見ているうちに、自分好みの柄があることを自覚したりして、なかなか面白い。日本でも当たり前のように着ることがあるが、アロハシャツとは何てハワイらしいシャツなんだろう。もっと詳しく、深く知りたくなった。

その成り立ちには諸説あるけれど、日系移民が着物をばらしてシャツに仕立てたのが始まりと言われる。1930年代に観光地化され始めたハワイにおいて、土産物として誰かが言い始めた「アロハシャツ」という呼称。これを1936年にエラリー・J・チャンという人物が商標登録したことから歴史が始まる。ちなみにシャツは日本製の浴衣生地を用いていたとか。

その1年前には『ムサシヤ』という日系人経営の店で「アロハシャツ」という名のシャツを売っていたという記録もあるそうだから、何が正解かは今となっては……。いずれにしても黎明期に和柄が多かったのは事実で、土産物として人気になり、メーカーが増えていくとともにアロハシャツの柄は多様化していく。ハワイらしいモチーフが増えていったのだ。

アロハシャツの柄のモチーフとしてよく描かれるのは、神に捧げる踊りであるフラの世界やハワイの花やヤシの木やカヌープランツなど。植物にもそれぞれに意味があって、例えばヤシの木は家族愛を、パイナップルは金運を示しているそう。他にモチーフとしてよく登場する海亀も、同じく金運アップの象徴なのだとか。モチーフに込められた伝統や意味を知り、それを踏まえてアロハシャツを選ぶことで、世界がもっと広がる。

メイド・イン・ハワイこそがアロハシャツ

アロハシャツはハワイそのものと言えるシャツだから、やはりハワイ産のものを身につけたい。だが、古くからあるアロハシャツのメーカーも近年、生産拠点を外国に移すなどの動きが多いのが実情なのだ。

「ハワイで生産するメーカーは減ってきていますね。縫い子さんの減少問題など、さまざまな要因があります。でもアロハシャツは元々土産物として始まっているのでハワイ産でありたいですよね。堂々と“アロハ”と呼びたいですから」

そう話してくれたのはデニス金子さん。彼が2017年にオアフ島でスタートしたブランド「LANI’S General Store」のファクトリーを訪ねると、なんだかワクワクした。鳴り響くミシンの音、穏やかな表情で作業をする縫子さんたちや、積み上げられた生地。どこか懐かしさを感じる、なんともエモーショナルな空間なのだ。今のハワイでは見る機会が減っている、とても貴重な光景なのかもしれない。

「アロハシャツの歴史を紐解いていくと、日系移民との関わりがとても深いことがわかります。黎明期に日本の着物が素材として使われることが多かったことへのオマージュではないですけど、例えばレーヨンのちりめんを使ったアロハシャツも多いんです」

デニスさんの作るシャツは、その背景にある物語をとても大切にしている。新進のブランドではあるのだが、ハワイから消えつつあるメイド・イン・ハワイを守り、次世代に繋ぐことを目指したていねいなものづくりの姿勢は、美しい1枚のアロハシャツに表れている。

シャツを羽織り、ハワイの風を感じる

着れば無条件にハワイ気分は高まるアロハシャツ。でも、どうせ着るならかっこよく着たい。

そこで、ハワイを代表するヴィンテージのアロハシャツ・コレクターであり、アロハシャツのメーカー「KONA BAY HAWAII」を主宰するKC木内さんにかっこいいアロハシャツについて教えてもらった。

3枚のアロハシャツ
1950年代頃に行われていた「抜染」のプリント、ハワイでの縫製にこだわる「KONA BAY HAWAII」のアロハシャツ。

「アロハシャツのクオリティが一番高かったのは1930年代から1950年代までなんです。僕は特に1940年代後半から1950年代のものに魅かれますね。1950年代以降、ハワイを舞台にしたハリウッド映画が多く作られると、役者たちがアロハシャツを着ていたこともあって、観光客の間でもアロハシャツが流行しました。

数が増えると粗悪品も出回り、お客もだんだん離れていったんです。1950年代には100社近くあったブランドが1960年代にはほとんどなくなってしまった。だから、いいアロハシャツとの出合いは貴重です。1950年代頃のアロハシャツは開襟でボックスシルエット、抜染プリントで素材はレーヨン。これが最高にかっこいいんです。軽くて心地よくて、風を着るシャツだと思うんですよね」

レーヨン素材のアロハシャツに袖を通してみると、なるほど、確かにシャツの中を心地いい風が通り抜けるのがよくわかる。日系移民から始まるアロハシャツの歴史を知って羽織れば、より親近感が湧くというもの。私たちもマラマの心をずっと我が身に留めておけそうな気がする。