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ハワイ・マラマの旅 〜食編〜 食べるだけじゃない。伝統食タロイモにも宿るマラマの教え

さまざまな人種が混ざり合っているハワイの食文化は面白い。でも、この旅であらためて気づいたのは、土地の素材を使った伝統ハワイアン料理こそ、ハワイの自然に触れた後の身体が一番喜ぶ食だということ。Eat Traditional Hawaiian food!!

photo: Kuni Nakai , Ej Moriguchi / text: Takuro Watanabe / coordination: Ej Moriguchi / cooperation: Hawai'i Tourism Japan

タロイモがハワイの人にもたらすものは、食事だけじゃないようだ

ハワイの文化の中心にあるのは間違いなくタロイモだろう。古代ポリネシアの人たちが運んできたカヌープランツの一つであり、タロイモをついて餅状にしたポイは古来、ハワイアンの主食であり、そのほかにもタロイモはさまざまな用途で使われ、ずっと食生活の中心にあり、近年その価値が見直されている。

ハワイの土地とタロイモの関係について知りたくて、カネオヘにあるクアロア・ランチを訪ねた。クアロアランチは1900年代初頭に牧畜が始まり、約500万坪という広大な土地をフィールドにした乗馬やバギーライド体験や映画のロケ地巡りができる観光牧場として有名なのだが、農業も行われており、3年前からタロイモ栽培体験やタロイモをはじめとした食文化を学ぶツアーを実施しているのだ。

「ハワイはワイキキビーチ、ショッピングのイメージがありますが、ハワイには奥深い伝統文化があり、その文化の中心にあるのがタロイモなのです。ハワイの創世神話では、タロイモはハワイに現れた最初の人間の兄弟であり、ハワイの人々はタロイモの子孫だとされています」

クアロアランチのブライアン・ラエさんが教えてくれた。タロイモはただの食べ物ではなくて、ハワイのシンボルであり、文化の中心だということがよくわかる。タロイモは300種類以上あるといわれ、ポリネシア全域で栽培されているが水田で育てるのはハワイならではなのだそう。

この日は近隣の小学生たちが学校の課外授業でタロイモ栽培の体験をしていた。「子どもたちに自分たちの土地のことを知ってもらい、アイデンティティを持ってほしいですね。観光で訪れた人にとってもここで学んだサステイナビリティの考えなどを自分の土地に持ち帰っても活かしてもらえると思っています」そうブライアンさんは話してくれた。

ジェシーさんのポイ・パウンディング
ジョーイさんのポイ・パウンディング。所作が美しい。

「タロイモは人間が生まれるずっと昔から地球に存在していました。その恵みで命を繋いでいるんです。大地に住む人々は、大地と人とは分けて考えてはいけないと思うんです。なぜなら、我々は大地のものを食べて、この環境の中で生きていますからね。2つを分けて考えることはできません」

クアロアランチのハワイアン文化アドバイザーを務めるジョーイ・カラナキオカラフイ・パルぺさんはそう教えてくれた。そのジョーイさんが伝統的なスタイルでポイ・パウンディングをしてくれた。パパという臼の役割を持つウッドボードとポハクという杵の役割を持つ石を用いて、蒸したタロイモをついていく。水を加えてペタンペタンと。まさに餅つき。リズミカルにつかれて出来上がったポイは温かくやわらかく、優しい味だった。発酵させて食べることもあるがこのつきたての味もたまらない美味しさ。

「大地と神話との深い繋がりを理解するための一つの大切な存在としてタロイモがあります。赤ちゃんが生まれてから母乳以外に最初に食べるのがポイ。我々の体を形作る重要な食材なんです。だから、その文化を継承する必要があるんです」。そう語るジョーイさんにマラマの持っている意味について聞いてみると静に答えてくれた。「マラマは大地を思いやる心です。大地に敬意を持って恵みを与えると、循環して自分にも還ってくると思うんです。全ては繋がっていますからね」

トラディショナル・ハワイアンフードの店『ワイアホレ・ポイ・ファクトリー』

クアロアランチから20分ほどの距離にあるワイカネ地区にやってきた。ワイカネ地区はかつてタロイモの一大産地だった土地。この地で1905年からポイの製造工場をしてきた『ワイアホレ・ポイ・ファクトリー』が出すハワイアンフードが大人気だという。

店の中をのぞいてみると、甘い香りが漂う。豚肉をタロイモの葉で包んで蒸した料理、ラウラウを取り出しているところだった。

次々に作られる料理を見ていたらお腹が空いたので、店のお姉さんおすすめのプレートを注文。先ほどのラウラウ、カルアピッグ(豚肉をバナナの葉で蒸し焼きにしたもの)、ロミサーモン(塩漬けサーモンとトマト、玉ねぎをあえたもの)、ハウピア(ココナッツミルクプリン)、そしてポイのプレート。レシピはオーナーのリコ・ホーさんのおばあちゃんが作ったそうだ。

酸味のあるポイを食べつつ、おかずを混ぜて食べる。味付けはシンプルで滋味深い素材の味、土地の味。ハワイの気候と風土そのままを食べている感じ。これこれ。パンケーキやアサイーボウルもいいけれど、土地を感じる食べ物ってこういうこと。元気が出てくる!

「ハワイ特有の食生活を次世代に受け継いでいくことが大切ですね」

店には次々とお客さんがやってくる。テーブルはないのでテイクアウトスタイル。皆、近くに停めたトラックの荷台や車の中で食べたりと、ラフに楽しんでいる感じもハワイらしい。リコさんが店先でポイ・パウンディングをしていると、「美味しかったよ!」「また来るね!」など通りがかりの人が声をかけている。地域に根付いた店だというのがよくわかる。

現在は機械でつくことが多いポイだが、手作業と機械式では食感、味が異なるため、古くからの手つきのポイを味わってもらうため、毎週日曜日はリコさんが手でパウンドしている。

「ポイの素材であるタロイモはハワイの文化の中で一番大切なものなんです。様々な人種が混ざり合うミックスカルチャーがハワイの魅力。ハワイならではの食文化その背景、味を楽しんでもらいたいですね。マラマの心や伝統文化、ハワイ特有の食生活を次世代に受け継いでいくことが大切で、それが自分の仕事だと考えています」とリコさん。やはりマラマはハワイという土地を理解するために大切なキーワードのようだ。

「マラマ・アイナという言葉があります。マラマとは、大地と人への思いやりのこと。家族と食べ物、人や文化を育んでくれるのが大地(アイナ)であり、大地を思いやってあげることで、良い循環を生み、人々の生活が豊かになると思うんです。家族や大地を“育む責任”があるし、大地や自然を“使う責任”もあると思っています」

「大地や自然を使う責任」というのは、私たちのようなツーリストにもいえることなのだろう。旅先の土地に敬意を持って接することの大切さがよく理解できた。

リコさんに話を聞けてよかった。ハワイの風に吹かれながら伝統料理を食べることで、とても大切なことに触れられた気がする。