“いつものオアフ島”を飛び出して
アイランド・ホッピング。
「ハワイへ行きたい」と言うとき、人はどんな光景を思い浮かべているのだろう?
ご機嫌なサーファー。ゴルフ場の青々とした芝生。フルーツ山盛りのアサイーボウル。道の脇にこぼれるように咲くハイビスカス。ビキニ姿のおばあちゃん。免税店のすんと冷えた空気を思う人だっているかもしれない。
訪れる誰もが、それぞれの楽しみ方と過ごし方を見つけられる場所。世界のどこでも本来はそういうものだろうけれど、太平洋にぽつんと浮かぶこの島は、とりわけおおらかで、とりわけ優しい。
そのおおらかさを支えるのが、島の自然の姿と、その上に生きる人々のライフスタイルだということに、おそらく誰も大きな異論はないだろう。海、山、太陽、星、植物……。
古くからハワイアンたちが愛した自然と、その恵みをいただくスローな暮らしぶり。
それに出会うには、少し田舎へ行けばいい。いつものオアフ島を飛び出し、カウアイ島、ハワイ島、マウイ島を訪ねた。
年も顔もさまざま。
個性豊かな“お隣さん”。
6つの主要な島からなるハワイ諸島。
オアフ島以外の5つの島、西から順にカウアイ島、モロカイ島、ラナイ島、マウイ島、ハワイ島は“お隣さん”こと「ネイバーアイランド」とも呼ばれるのだが、この“お隣さん”、どこも個性的で、ひとりにはできないさまざまな顔を見せる。
“ガーデン・アイランド”とも呼ばれるカウアイ島は、水と緑に彩られる島。ハワイ諸島のなかでいちばん古い、約500万年前に生まれた島で、果てしない時間をかけた大自然の造形を見ることができる。〈ワイメア渓谷〉は、そんな場所の一つだ。
幾重もの地層が美しい縞模様を描く赤土の渓谷は、世界で指折りの降水量というワイアレアレ山に注ぐ雨水が地層を削りとって断崖を表し、さらに濃淡の緑が断崖のあちこちを覆ったもの。地球の大きな力が仕立て上げた、その名の通りに箱庭のような景色が心を打つ。
視界いっぱいに広がる渓谷の遠くからやってくる雨雲、雨が通り過ぎた後の虹……。
スケールが大きすぎて、日常は遠ざかり、ゆったりとした気持ちが訪れる。さすがはネイバーアイランドのなかでもいちばん“おばあちゃん”の島。懐がひたすらに深い。
カウアイ島が“おばあちゃん”ならば、ハワイ島は血気盛んな青年だ。
約43万年前の形成と、諸島のなかではいちばんの新顔で、活火山キラウエアとマウナロアもある。四国の約半分ほどの諸島最大のサイズを誇るが、たびたびの火山爆発によって溶岩が海へと流れ込むなどし、島は今も成長し続けている。ぐつぐつと鈍い赤に煮えたぎるマグマは恐怖でもあるが、そこにこもるエネルギーは、この島の大きな魅力だ。
写真の〈アイザック・ハレ・ビーチ〉は、2年前に起きたキラウエアの噴火で劇的に姿を変えた。
噴火による溶岩流が、ロコたちが週末にリラックスして過ごすビーチだったここへも押し寄せたのだ。ようやく収束した頃には、ビーチの半分ほどが分厚い溶岩で埋まってしまった。
残ったのは、流れをとどめたまま冷え固まった雄々しい表情の溶岩と、熱い溶岩が海水に接して砕け散ってできた漆黒の砂のビーチだ。人間が全く制御の利かないものの上に生きていることを思い知らせる場所。それなのに、これはこれでとても美しいのだからかなわない。
地球は生きているんだなあ……。
ネイバーアイランドを旅していると、そんな言葉が口をついて出る。地球という巨大な生き物、その背中を借りるようにして共存する人々に出会える場所。マウイ島はそんなふうに表現できそうだ。
2つの火山島が百数十万年前の爆発でつながってできた、ひょうたんのような形のこの島は、その成り立ちから東西に高い山を持つ。山々を起点に、島の北部と南部、西海岸と東海岸、そして標高によって気候に極端なほどのバリエーションが生まれていて、人々は、今も昔もそれぞれの場所にふさわしい暮らしをしている。
例えばこの島がウィンドサーフィンの聖地にして、カイトサーフィンやフォイルサーフィンが生まれた地でもあるのは、一年を通して、北東からの風が吹く地理的特徴から。
そして例えば、オーガニックファーム〈オオ・ファーム〉で柑橘や色とりどりの野菜、コーヒーなど多種の作物を栽培できるのは、東側の山、ハレアカラの中腹にあり、一日のなかで四季が巡るような変化に満ちた土地だから。
さらに、20世紀初頭に建てられたプランテーションの労働者のための宿泊施設をリノベーションした〈ルメリア・マウイ〉のような歴史を感じる建物も、現在の町並みの一部として生きている。
ルーツを知り、その先へ。
更新される「本当のハワイ」。
とても興味深いのは、ハワイらしさを尊び、ハワイらしいライフスタイルを模索する人々が、ネイティブ・ハワイアンには限らないことだ。
マウイ島で〈ココナッツ・インフォメーション〉を営むライアン・バーデンもその一人。雑木林を切り開いてココナッツファームをつくり、啓蒙活動を行うライアン、生まれはカリフォルニアだ。
ココナッツは、実は食用・飲用に、樹皮はロープやカゴ、建材にと無数の使い方ができる植物で、かつてはハワイでも有効利用されていたが、文化が急速に衰えてしまった。ライアンはこの植物に魅せられ、ポリネシアの各地を巡って古くからの知恵を学び、それを人々に伝えている。
「ココナッツは古い文化どころか、マルチでサステイナブルで、未来的ですらある。だからハワイに生きる誰もに価値を知ってほしいんだ」
新しい世代の人々が土地本来の自然やサステイナブルな生活に学び、技術や知識を更新して未来へとつなげる。そんな美しいサイクルがあちこちで起きるところ。こうしてハワイはこれからもハワイであり続ける。
世界がこんなふうに分断されてしまう日が来るなんて、誰が予測できただろう?でも大丈夫。ハワイはこれからもずっとそこにあるのだから。今だからこそ、はっきりと思う。
早くハワイへ行きたい。