村上小説の妄想食卓「孫娘が良い包丁で作ったサンドウィッチ」

きりりと角の立ったサンドイッチ、ぴったりのタイミングでゆで上がるパスタ、グラスに注がれるウイスキー……。そそる「食」のシーンもまた、村上作品の魅力だ。印象に残る名シーンをぎゅっと詰め込んだ食卓はどんな風景になるのだろう。時代背景や前後の文脈をじっくりと読み込んで具現化した「妄想食卓」へようこそ。

Photo: Satoshi Nagare / Styling: Tomomi Nagayama / Cooking: Shizue Ota / Text: Sawako Akune / Edit: Masae Wako

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』

私はソファーに対するのと同じようにサンドウィッチに対してもかなり評価の辛い方だと思うが、そのサンドウィッチは私の定めた基準線を軽くクリアしていた。
パンは新鮮ではりがあり、よく切れる清潔な包丁でカットされていた。

とかく見過されがちなことだけれど、良いサンドウィッチを作るためには良い包丁を用意することが絶対に不可欠なのだ。どれだけ立派な材料を揃えても包丁が悪ければおいしいサンドウィッチはできない。

マスタードは上物だったし、レタスはしっかりとしていたし、マヨネーズも手づくりか手づくりに近いものだった。

孫娘が、良い包丁で作ったサンドウィッチ

「孫娘が、良い包丁で作ったサンドウィッチ」

老博士の孫娘が作ってくれたハムとキュウリ、チーズのサンドイッチを、主人公はこのシーンで「五、六皿ぶん」の3分の2以上は食べてしまう。サンドイッチにはうるさい主人公が「良いサンドウィッチ」に不可欠と考える「よく切れる包丁」は、主人公が女性にプレゼントした爪切りがドイツ〈ヘンケルス〉社のものと推測できることから、同社のものをチョイスした。