村上小説の妄想食卓「スタンダードなドーナツとロゴ入りマグに薄いコーヒー」

きりりと角の立ったサンドイッチ、ぴったりのタイミングでゆで上がるパスタ、グラスに注がれるウイスキー……。そそる「食」のシーンもまた、村上作品の魅力だ。印象に残る名シーンをぎゅっと詰め込んだ食卓はどんな風景になるのだろう。時代背景や前後の文脈をじっくりと読み込んで具現化した「妄想食卓」へようこそ。

Photo: Satoshi Nagare / Styling: Tomomi Nagayama / Cooking: Shizue Ota / Text: Sawako Akune / Edit: Masae Wako

『ダンス・ダンス・ダンス』下

僕は売店で新聞を二紙買い、ダンキン・ドーナツでドーナツを食べ、コーヒーを飲みながらそれを読んだ。(略)
僕はダンキン・ドーナツのピンク電話で五反田君のマンションに電話をかけてみた。もちろん彼は出なかった。留守番電話だった。僕はちょっと大事な話があるので連絡をほしいと言った。
そして新聞をごみ箱に捨てて家に帰った。歩きながらどうしてヴェトナムとカンボジアが戦争なんかしてるんだろうと思った。よくわからない。複雑な世界だ。

スタンダードなドーナツとロゴ入りマグに薄いコーヒー

「スタンダードなドーナツとロゴ入りマグに薄いコーヒー」

真ん中にぽっかりと穴の開いたシンプルな味のドーナツ。その穴は“何もない場所”か、それとも“無がある場所”なのか……?
考え始めると止まらない哲学的な問いをはらんだこのスイーツは、それゆえだろうか、村上作品の随所に登場。多くはアメリカ発祥で日本にも1970年から98年まで存在したダンキン・ドーナツ!懐かしのロゴ入りマグには薄めのコーヒーで決まり。