ハイドン
弦楽四重奏曲「五度」ニ短調 作品76の2
名曲揃いの作品76の中の一曲。ハイドンは作った曲数がやたら多いので、名前がついていると助かる。5度下降する音階が何度か出てくるので、この名前がつけられた。きっと当時の人たちも作品を判別するのに苦労したのだろう。
ハンガリーSQ(SQ:弦楽四重奏団の略記。以下同)、冒頭から最後までぴりぴりと厳しい音が鳴り響く。残響ほとんどなし、情緒なんぞ知ったことかと、4つの弦楽器の熾烈な切り結びが繰り広げられる。ベートーヴェンやバルトークの弦楽四重奏曲の演奏に定評のある団体だが、その方法論をほとんどそのままハイドンにも持ち込んでいる。
そこまでやらなくても……というのが正直なところ、僕の抱く感想だが、その時代にはそういうものもある程度必要だったのかもしれない。演奏の密度はとにかくとても高い。
ヤナーチェクSQは1947年にブルノで結成された団体だが、隣国のハンガリーSQとはまったく対照的に柔らかくふくよかな音で、この愛すべき作品を演奏している。同じ曲でこんなに印象が違うものかと感心してしまうことになる。時代を感じさせない温かみがそこに流れている。
イタリアSQはいつもながら美音を駆使して、音楽を隙なく歌い上げる。そして終始その上品さを失うことはない。他の弦楽四重奏団とはひと味違う何かが常にそこにある。そういう音楽を好む人にはたまらなく魅力的だろうが、「ハイドンにしてはちょっと流麗に過ぎるんじゃないか」と懐疑する人も中にはいるかもしれない。
クリーヴランドSQは当時、結成後まだ数年しか経ていない新進の存在だった。そんなせいもあるのだろう、冒頭からいかにも若々しい、活発な音を出す。音楽は生き生きとして、今にも踊り出しそうだ。音楽的緻密さよりは、むしろそういう音楽の自発的な流れを大事にしているのだろう。でも全体的に少しばかりゆとりが不足しているように感じられる。なんだか狭い部屋に閉じ込められたみたいに。
東京SQ、まだメンバー全員が日本人であった頃の演奏だ。音が緊密でまとまりよく、しかものびやか。というこの団体の美質がよく出ている。個々の楽器の音がクリアで、内声部もしっかり聴き取れる。
(この時点における)弦楽四重奏団の新しい形のようなものがしっかりと示されている。ヤナーチェクSQのふくよかさがちょっと懐かしくなるけど。