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深遠なるタン世界を巡る冒険へ:名タン偵はるかの事件簿〜後編〜

事件は会議室で起きてるんじゃない、焼肉店で起きているんだ!焼肉の中でもとりわけタンを愛する自称名タン偵が、己の興味と欲望の赴くままに、タンを語るうえで重要な6軒の焼肉店を、体(とりわけ胃腸)を張って潜入調査。タンにまつわる気になるあれこれを探索します。「深遠なるタン世界を巡る冒険へ:名タン偵はるかの事件簿〜前編〜」も読む。

photo: Yoichiro Kikuchi / text: Haruka Koishihara

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老舗の味への敬愛を
込めて端正に仕込む

タン偵は思い出していた。2011年の〈うしごろ 西麻布本店〉開店の際、創業者の方から聞いた話を。いわく、清澄白河の名店〈静龍苑〉のタンに惚れ込み日参。嘆願してついに、技を伝授していただいた、と。一念岩をも通す。ここは一つ、そのこだわりを調査したい。

その名も「極みのタン」は、総料理長の鳴海博之さんによると1本のタンから3人前しか取れないという。目の前で、皮付き状態からタンをさばいていただくと……、筋が集まっているタン下や硬いタン先を外して皮を剥き、さらに指先で感触を確かめながら細かい筋を丹念に掃除。こうして磨かれた芯の部分は、さながらピンクゴールドの延べ棒だ。

これを冷凍し、提供時には半解凍で約4mmピッチで斜めにスライス。ここが〈静龍苑〉譲りのポイントだ。「もみダレの味が入りやすい、厚みと面積のバランスが重要です」と鳴海さん。そして、最後の盛り付けも丹精込めて。

目に美しく、舌においしいタンは、細かいこだわりの集合体であった。かくして、名店オマージュのタンは、今や〈うしごろ〉の看板メニューに。

西麻布〈焼肉うしごろ〉の総料理長・鳴海
焼肉歴13年、総料理長の鳴海さん。ちなみに、個人的に好きな部位はギアラだそう。

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都内屈指の厚切りタン
のポテンシャルに感嘆

タン偵は考えた。サクサクとした食感が軽快な薄切りタンもいいけど、口いっぱいに頬張る厚切りのタンも、これまた素敵。そして、2021年現在焼肉ファンの間で最も支持されている厚切りタンといえば?答えは一つ!〈焼肉しみず〉だ。

予約必須の人気店は〈焼肉 名門〉の中村さんもその真摯な姿勢を認める職人・清水優さんのお店。オープン以来惚れ込んだ黒毛和牛だけを扱っているが、稀少な和牛のタンはそう簡単に仕入れられるものではない。業者さんとの関係を構築し、徐々に上質な生の黒タンを回してもらえるようになったという。 

タン好き垂涎の的である「厚切りタン塩」は、とことん磨いたタン芯1本からわずか5〜6枚しか取れない至宝。厚さ約2.5cm、重量30〜40gと、圧倒的な存在感を誇る。

さっそく七輪にのせようとすると「焼くときは、網の端に。時々ひっくり返して、断面だけをじっくり焼いてください」と清水さん。炎が上がると焦げ臭くなってしまうので、温度が高い網の中央に置くのはご法度なのだ。

「急いては事を仕損じる」と己に言い聞かせ、はやる気持ちを抑えて淡々と焼いていくと、やがて表面に脂がプクプクと。厚みが増し、トングから伝わってくる弾力もグッと高まっているのがわかる。

仕上げに網の中央で天地をカリッと焼いたら、即かぶりつきたいのをこらえ、特別に包丁で切っていただいて内部調査。見事なキツネ色、かつ均一な薄さに焼けている表面とは裏腹に、ロゼ色の中心部はしっとりと肉汁を湛えていて蠱惑的♡さていよいよ実食、というところで清水さんから「舌の裏側の方から食べて、表側との食感の違いを感じてください」とのアドバイスが。

その通りにすると、裏側と比べて表側はサクッと度が段違い!これは、厚切りならではの愉悦だ。噛み締めながら、タン偵は感じ入った。

不動前〈焼肉しみず〉の店主・清水
黒毛和牛一筋!の店主、清水さん。毎日自ら仕入れに出向く。

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たんまりタンを
楽しむコースで満タン

タン偵は考えた。焼肉店におけるタンの人気はもはや国民的。ならば、タンがセンターを務める焼肉店が登場してもいい頃ではないか?と、タン偵が考えるまでもなく、すでに存在していた。2021年3月にオープンした〈タンとタン 焼肉いわしげ 五反田店〉だ。

田町と中野にある〈ツラとキモ 炭火焼肉いわしげ〉と同系列で、いずれも曙橋の、予約の取れない超人気店〈ヒロミヤ〉がメニューを監修している。

ツラミとレバーに続いて、タンをフィーチャーすることになった理由を店長の市川拓海さんに尋ねると、実に意外な答えが返ってきた。「五“反”田にいい物件が見つかって、それならタンだ!となったんです」

ちょ……そんな単純な理由で?ひょうたんから駒とはこのことだ。が、やると決めたらとことん。おまかせコースに登場するタンのうち、「炙り刺」「炙りユッケ」「ステーキ」には、原価が高くなろうとも和牛のタンを使っている。

そのほかの「特選タン」「特選タンシャブ」も、和牛でこそないが食味の良いものを吟味。心ゆくまでタンを堪能できて7000円とは、かなりのお値打ちだ。ちなみに〆の麺やデザートも、ある意味タン縛り。謎解きは、お店を訪れてディナーの最後に。

そして、タン偵は発見した。徹頭徹尾タン推しの店が成立するほど、タンは今や不動の地位を確立した。真実はいつも一つ、タンしか勝たん!お後がよろしいようで。

五反田〈タンとタン 焼肉いわしげ〉和牛タンステーキと特選タン2種盛り合わせ、和牛タン炙り刺、和牛タン炙りユッケ
手前から時計回りに「和牛タンステーキと特選タン2種盛り合わせ」「和牛タン炙り刺」「和牛タン炙りユッケ」(写真はすべて4人前)。