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ハードリカーがある風景:小説家・荻堂顕が語るバーの振る舞い

強いお酒は本当は優しい。だから特別な日も、なんでもない日も、ぐいっと飲み干したくなる。割ったり、ストレートでそのまま飲んだり、カクテルを楽しんだり。8者8様の暮らしを彩る、ハードリカーがある風景。

Illustration: Hiroki Muraoka / Text: Neo Iida

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大人が見せたバーの作法

大学時代からビールが苦手で、自然とウイスキーやスコッチを飲むようになりました。居酒屋よりもバーが好きで、卒業後に幡ヶ谷に越したときも、まずはバーを探したくらい。好みの店を見つけられなかったんですが、数年後にクラフトジン専門店がオープンしたのを発見しました。

〈ファンカ〉っていうお店なんですけど、珍しいジンが80種類くらいあって、作ってもらった一杯がまるで香水のような華やかさ。ジンはさほど好きではなかったけど、その香りに圧倒されて、しょっちゅう通うようになりました。

クラフトジンには厳しいルールがないらしいんです。例えばワインには産地や品種、製造工程といった厳格な基準があるけど、ジンは最低限ボタニカルな成分を使えばOK、という程度。

だからオーセンティックなバーでは扱われないし、正統派からは軽んじられてるけど、オルタナティブにおいしいお酒を造ろうとする姿勢に共感したんですよね。

さらにそういうジンを扱う店主のことも尊敬してます。どんなお客さんが来ても絶対に20分は説明するので、誠実だなあって。「香りが抜けちゃうから常温で」みたいなプレゼンをきっちりしてくれる。そのぶん提供は遅くなるんですけどね(笑)。

Hiroki Muraoka イラスト

外で飲む理由はリフレッシュです。スマホも本も持たずに、財布とたばこだけ持っていく。ジンを飲みながら常連さんと話すのも楽しいですし、知らないお客さん同士の突拍子もない会話が、小説のヒントになることも。とにかくバーの雰囲気と文化が好きなんです。

大学時代にゴールデン街に入り浸ってたときは、席が一緒になったお客さんがトイレに立った際、僕の分までお会計を払ってくれたことがありました。

僕は組織には向いていないと思って就職をしなかったけど、自分より後の世代のために何かをする、その文化は残さないといけないと思っていて。

成長とともに、後輩にご馳走できる大人になりたい。バー文化には、その作法が今も息づいている気がするんです。

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