「街で着ているとよく声をかけられるんです。どこで手に入れたんだと。手刺繍だと伝えると信じてもらえないことが多くて(笑)」アメリカと日本のカルチャーをモチーフにした、ポップで手仕事ならではの味のある刺繍で、四六時中ハプニングが起こるNYのストリートでも目を引くのが〈Otakara NYC〉だ。

ヴィンテージバイヤーとして1988年に渡米し、現在はアメリカのインテリアを取り扱うショールームでセールスを担当している鈴木聡さんが刺繍を始めたのは、パートナーの扶美さんの一言がきっかけだった。
「ちょうどコロナ禍で時間ができた時のことです。ヒッピーの人たちがよく着ていた、シャンブレーシャツなどに刺繍の入ったものを自分も若い頃に好んで着ていたことを思い出して。また着たいと思いオンラインで探したものの、なかなか今の気分に合うものが見つからなかった。そんな時に妻が“なければ、自分で作ったらいいじゃない”と言ってくれて、すぐに糸とサンプラーを街の手芸屋さんに買いに行きました」。
それまで刺繍経験はなかったというが、もともと自分の手を動かしてモノを作ることが好きだったそうで、独学で針を入れていくうちに周りの友人から声がかかるように。
「モチーフができるとインスタグラムに上げていたんですが、長い付き合いの友人である〈Engineered Garments〉の鈴木大器さんが、作品を見たいから事務所に持ってきてもらえないかと連絡をくれて。モチーフを描いたスクラップブックと一緒に見てもらったらコラボしようとお声がけいただき、〈NEPENTHES NY〉でポップアップをすることが決まったんです。当時まだブランド名もない状況でしたが、急いで作りました」
普段から何か思い浮かぶと描き留めるというモチーフは、キース・ヘリングやアンディ・ウォーホルなどポップアートから、ミッキーマウスやスヌーピー、ネイティブアメリカンやトーテムポールといった民芸モノなど好きなアメリカのカルチャーと、日本らしい富士山や盆栽、浮世絵まで。2つの異なる文化が混沌と、でも美しく調和するのは、本人いわく「自分のテイストはヘタウマ」だという手刺繍だからこそ。

「自分のために始めた刺繍でしたがこれまでに〈ポストオーバーオールズ〉や〈バテンウェア〉〈マウンテンリサーチ〉など昔からの友人たちのブランドから、〈KITH〉などとコラボレーションをさせていただいたことで、ブランドとしての今後の指針が見えてきたんです。
今でも作る過程が楽しいですし、これまで通り自分がデザインから刺繍まで手がける一点モノは続けていきますが、それに加えてもう少し多くの人に届けられるようなラインを考えています。自分だけだとどうしても作れる量に限りがあるので。ですが、手仕事で生産してもらえる業者と協業するなど、新しい挑戦でも手刺繍にはこだわりたいと思っています」