リミッターを外して初めて追いつける世界
石井岳龍(旧名・石井聰亙)監督作品の出演は、『箱男』で7度目になる永瀬正敏さん。「脚本を基に自分なりに準備をして、監督の思い描く世界に近づこうとしますが、石井監督の現場では150〜160%のエネルギーを注いで、自分のリミッターを外さないと、監督の世界に追いつけないんですよ」
想像していたト書きと全く違うことを現場で求められることもある。それが怖くもあり楽しくもあるのだと笑う。『箱男』では、石井作品に何度も出演している浅野忠信さんとの芝居で、大いに刺激を受けた。「浅野くんが予想以上に振り切っていたというか、パンキッシュでしたね(笑)。石井組でそうしたくなる気持ちはよくわかるので、こっちも面白くなって興奮しながら演(や)っていました」
浅野さんや佐藤浩市さんには特別な信頼を寄せているという。「みんな相米組経験者なんです。あの人と戦ってきたというだけで、言葉にしなくても通じ合えるところがありますね」
23年前に急逝した相米慎二さんは、永瀬さんのデビュー作『ションベン・ライダー』を撮った監督であり、映画の師匠。「最近、若い俳優さんに相米さんについて聞かれることが増えて、僕もつい嬉しくなって、なんでも話してしまいます(笑)」
昨年、デビュー40周年を迎えた。相米監督に「OK」と言ってもらえるような芝居ができる俳優になりたいという思いは今も変わらず持ち続けている。「仕事を始めた当初は、経験を積めば当然、芝居ができるようになると思っていましたが、全然そうじゃなかった。作品ごとに正解が変わるので、毎回悩みますし、いつもデビュー作のような感覚でいます」
俳優にとって、キャリアの有無はあまり関係ないと思うと、謙虚な永瀬さんはつぶやく。「昔の大先輩の作品を観ると、僕は今でも心の温度が上がったり、揺さぶられたりします。ずっと下の世代の人が観てくれた時に、面白いことをやっているなあと、心のフックに少しでも引っ掛かるような作品に出続けられたらいいなと思いますね」