〈八戸市美術館〉がリニューアルオープン
旧〈旧八戸市美術館〉は、税務署跡の建物を活用して1986年に開館。郷土にゆかりのある作家の収蔵品展示や市民の絵画展などを行い、地元住民に親しまれてきた。しかし、もともと美術館として建設された建物ではないため設備が不十分であったことや、老朽化などの理由により2017年に閉館。その跡地と周辺を整備し、新たな〈八戸市美術館〉が誕生した。
「種を蒔き、人を育み、100年後の八戸を創造する美術館~出会いと学びのアートファーム~」というコンセプトを、相互に学び合う「八戸ラーニングセンター」と位置付けて設計に落とし込んだのは、〈京都市京セラ美術館〉などを手がけた建築家の西澤徹夫と浅子佳英。
千葉県松戸市のアーティスト・イン・レジデンス〈PARADISE AIR〉代表で、世界各国のラーニングプログラムに詳しい森純平もスキームの段階からチームに加わった。
入館してまず出迎えるのが、「ジャイアントルーム」と呼ばれる天井高17m、約800平米の大空間だ。それぞれの展示室のハブでありながら、カーテンや可動棚などで仕切ることで、展示やイベント、ミーティングなど、用途に応じて空間を区切ることもできる。
そのほか、巨大な「ホワイトキューブ」や、映像作品の展示に適した「ブラックキューブ」、アーティストが滞在して作品づくりができる「アトリエ」、講演会や演劇も行える「スタジオ」など、個性的な展示室が数珠繋ぎのように設けられている。
開館記念展には写真家・田附勝の新作も
グランドオープンの11月3日から2022年2月20日までは、「ギフト、ギフト、」展を開催。八戸市を代表する祭り「八戸三社大祭」を起点に、アートを通して「ギフト」の精神性を見つめる。
インスタレーションや写真、映像、浮世絵、陶芸、音楽、建築など、10組のアーティストと1つの参加コレクションにより、多彩なジャンルで展示を行う。
田附勝は1998年から2007年まで撮り続けた『DECOTORA』の新作を発表。八戸の漁師をクローズアップした『魚人』(T&M Projects)や、東北の人々の営みに向き合った『東北』(リトル・モア)など、これまでも八戸を舞台に撮影を行ってきた田附が、2020年11月から21年7月までに撮り下ろした、八戸周辺の9組のデコトラの写真を展示する。
八戸はデコトラ発祥地のひとつともいわれ、海産物や建材などを中央へ運ぶうちに他地域に伝播、互いに刺激を受けながら発展したとされる。
オープニング展のテーマである「ギフト」を田附なりに咀嚼し、デコトラの装飾的な要素、意味や、トラックドライバー自身の仕事に対する誇りに着目した。
「トラックを着飾るデコトラには持ち主の美学が反映されると思う。同時に彼らは仕事にも美学を持っていて、例えば海の仕事をしている人は仕事が終わるたびにデコトラを洗うんだよね」
自身のことを「実験オタクだから大舞台で実験するのが好き」だと話す田附。本展示では初の試みも。初めてデジタル撮影に挑戦したほか、吊り写真には光沢の質感が出るよう、アクリルにインクジェットでプリントした。さらに特筆すべきは、奇抜にも思える額装だろう。デコトラの一部塗装を施したという。
「アーティストの美術だけでなく、大衆の美術にも焦点を当てたかったんだよね。伝統工芸は継承されていくけれど、デコトラの場合はトラックや塗装が変わることで、塗装の技術もなくなるかもしれない。だから、どうにか作品として残せないかと考えた。デコトラにはデザイン性や美的感覚を持ち合わせているから、美術館で展示することに意味があった」
また、地元企業〈横町建材〉から借りたという、トラックの看板灯「アンドン」や、静岡のプラモデルメーカー〈青島文化教材社〉のデコトラのプラモデルも展示する。
そのほか、参加アーティスト、コレクションは以下のとおり。
また、オランダ在住のピアニスト/美術家の向井山朋子は「ジャイアントルーム」で市民らと制作したパフォーマンスを上演、また映像化したものを展覧会内で展示する予定だ。
館長に就任した佐藤慎也は、「従来のモノとしての美術品展示が中心だった美術館とは異なり、人が活動する空間を大きく確保することで、モノやコトを生み出す新しいかたちの美術館として、新たな文化創造と八戸市全体の活性化を図ることを目指す。従来の立場や枠組みを超えて、アートと人との出会いの輪が広がり、そこから得た学びが栄養となって、人々の感性や想像力を育み、街や暮らしをより豊かにすることを期待する」と話した。