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写真家・津田直と音楽家・原摩利彦の展覧会が群馬で開催中。古墳時代の景色と音に触れる体験を

記憶の中にかすかにあった、いつかの音や風景が脳内に響く。そんな展覧会が、群馬県の〈太田市美術館・図書館〉で始まった。

photo: Koh Akazawa / text: Masae Wako

古墳時代の景色と音。その断片に触れる体験を

群馬は関東屈指の古墳大国で、今も約2000基の古墳が残る。写真家の津田直と音楽家の原摩利彦は、それらを中心にフィールドワークを重ね、風景と音で古代と今をつなぐ作品を共作した。

展覧会の様子_古墳時代の景色と音。その断片に触れる体験を
1階は古墳の外に広がる世界を表現。

主な会場は、昼と夜を表す2つの展示室。1階展示室に並ぶ津田の写真は、すべてが“断片”だ。
「さまざまな古墳の起伏を撮影し、一つのアウトラインを描くように点在させました。古墳時代の群馬に馬の群れがいたことも、作品に取り入れています」と津田が言う通り、会場で見た人だけが気づいて微笑んでしまうだろう馬の写真もある。

そこへ高く低く響くのは、8人の弦楽奏者による原の楽曲「Sol」。ササン朝ペルシャの音楽も引用した白昼夢のような甘い曲が、映画館の音響クオリティを持つ5台の新作スピーカーから流れ、その中を歩くことで風景と音の起伏が重なっていく。

展覧会の様子_古墳時代の景色と音。その断片に触れる体験を
古代の闇を表す2階展示。写真は共にパノラマ撮影したもの。

一方、2階展示室は真っ暗闇。死者や副葬品を納めた石室に入り込んだような感覚だ。正面でキラキラ輝いているのは津田がかつて撮影した、とある神聖な海の未発表写真。聞こえてくるのは波の音──と思ったら全く違うことに驚かされる。

「石室の中にレコーダーを1晩置いて採集した、気配のような音だけを使って作った音楽です。実はこの共作を始めた時、“トライ”をテーマにすることを思いつきました。海を渡来してきた人々が見た景色、聞こえていた音、古墳という文化、大陸から来た馬。僕らが2つの会場にちりばめたのは、そういったトライの欠片(かけら)なんです」

それらの欠片に触れることは、と津田も言う。
「1500年の時空を超えて誰かの存在に触れること。その体験が、自分でも忘れかけていた記憶を呼び覚まし、感情を揺さぶるのだと思います」