天才ガウディとペレの、20世紀初頭の窓をめぐる冒険
話を聞いた人:倉方俊輔(建築史家)
「見てほしいのがアントニ・ガウディの窓。ライトやミースの少し前、近代建築の先駆的存在です。彫刻的な建物に目を奪われますが、窓に注目すると、実は工学的なモダン建築であることがわかります」
倉方さんがそう話すのは、ガウディが改修した〈カサ・バトリョ〉。

改築:1906年。1877年に建てられたスペイン・バルセロナのアパートを、アントニ・ガウディが改修した。通りに対して大きく開かれたガラス窓は、近代建築らしい特徴の一つ。その中のいくつかには、下部に通風用ルーバー窓が設けられた。部屋と部屋の境界など随所に通風・換気の窓があり、建物の奥まで空気が循環するよう考えられている。photo/高橋暁子/AFLO
「窓の大きさが当時としては規格外。構造体である柱から窓を分離することで大きなガラス面を造り、時には“上部を採光窓、下部を通風窓”と分けています。窓の造りで光や風の巡り方を操作しているんですね」
人の体の中を血が巡るように、目に見えない要素をうまく循環させることで建築が有機的になる。ガウディはそう信じていた。窓の形も建物の複雑な構造も、空気や熱や音の循環を考えて生まれたものだ。
「ガウディの建築はなぜ、生命感にあふれ、人の心を打つのか。窓にはその答えが表れています」

そして、打ち放しコンクリートと色ガラスで、巨大な光の面としての窓を造ったのが、コルビュジエの師でもある建築家オーギュスト・ペレ。
「〈ル・ランシー・ノートルダム教会〉はすべての側面から光が入る建築です。コンクリート造の建築を追求したペレも、ガウディ同様、構造体である柱を独立させることで、大胆な光の窓を生み出しました」
驚くのはこの美しい窓が、工場生産によるコンクリートパーツを無数に組み合わせてできていること。「こうした彼らの世代の挑戦が、さらに大きく拡張するモダニズムの窓という冒険につながったのです」