まぶしい新緑のそこここに、赤やピンクや黄色をちりばめたよう。ここは、ファッションブランド〈SEEALL〉のデザイナー、瀬川誠人さんの庭。ヤマブキやハナモモなど日本の花もオーストラリア原産のワイルドフラワーも、分け隔てなくのびのびと咲いている。
それらを自邸に飾ろうというのが今回の趣旨。実際に生けるのは友人の花道家・渡来徹さんだ。1950~60年代のヴィンテージ家具が並ぶリビングに、どんな花をどう飾ろう?まずは庭を散策しながら花選び。
春、鎌倉。瀬川邸の庭に咲くワイルドな花と可憐な花。
渡来徹
鎌倉に引っ越してきて3年ですよね。庭の木も生長してると思いますが、植えるものはどういう基準で選んでいるんですか?
瀬川誠人
花や葉形です。ネイティブプランツに見られる造形の面白さに惹かれていて、これらをグラデーションで組み合わせることを、庭作りの醍醐味として楽しんでいます。
渡来
玄関先のアカシアにはツルバラやフジが絡まって、自然のアーチができているのも風情がありますね。お手本にしてる庭はありますか?
瀬川
オランダの造園家、ピート・オドルフの庭ですね。理想は、花も雑草もミックスした、人の手と自然の境がわからなくなるような庭作り。僕は自然農も実践しているのですが、その畑作りにも近い感覚です。裏庭の畑にはちょうどキャベツやブロッコリーの花が咲いてますよ。
裏庭へ移動すると渡来さん、畑の奥に何かを発見した様子。
渡来
おー、シュロの木に花が咲いてる。つぼみのものは市場でもほとんど見かけないので、これ生けましょう。シュロ自体はこのあたりに自生したものだし、これも自然との境が曖昧になっているということで。
瀬川
ホントですね、今まで気づかなかった。初めて見たけれど、造形的にも面白い。知らないうちに咲く花があるのも庭の楽しみです。
渡来
切り花の世界では、だいぶ珍しい花材も流通しているんです。ただやっぱり多くはニーズのあるものや花持ちのよいもの、そして流通に乗せやすい規格内の姿が重宝がられてまして。ハミダシものの花はこうした機会じゃないと味わえない。
瀬川
確かに。自然に生長して曲がった姿なども魅力的ですよね。
渡来
庭を見ていると、“真っすぐのびることだけが正義じゃない”と理解しますよね。今日はせっかく瀬川さんのお庭から取らせてもらうのだし、市場の切り花からは想像できない花の気ままな姿を生けましょう。
瀬川
それは面白そうです。
方向性が決まったところで、ヤマブキ、シュロの花、菜園からブロッコリーの花などを切って室内へ。
自邸の庭に咲く花の「気ままな姿」を家の中に飾る。
渡来
リビングは落ち着いたトーンでまとまっているので、カウンター的に八重のヤマブキ、それと斑入りのシルバープリペットにシュロの花を合わせて、軽やかにワサッといきましょう。ヤマブキが左右に流れる感じがいいかな。
瀬川
黄色のグラデーションで、造形は違うけど色は揃えるんですね。僕の服作りにおいても、同系色・異素材の組み合わせはよく使うので、共通する美しさを感じます。
渡来
量感があるので、色はまとめてさっぱりさせました。お次は垂れるように咲いていたツルバラとフジの花。室内でも高いところから垂らして飾りましょう。パイナップルセージの枝ぶりやヤグルマギクの立ち姿は、その良さを生かしてシンプルに。
瀬川
庭で見るのとは違った、組み合わせの妙が生まれていますね。
渡来
生ける時に庭でどう咲いていたか、どんな向きで枝が伸びていたのかを覚えておくことも大切です。切る前の姿が先生。植物は太陽、明るい方を目指して育つので、その姿に機能美が備わっていると理解して尊重すればよいわけです。
次は、ダイニングのキャビネットにしましょうか。
瀬川
ランプは移動させますか?花と喧嘩しないですかね。
渡来
いやいや、そのままで大丈夫です。主役はあくまでも、今、暮らしている住空間。そこに花を付け足す程度の意識で始めるのがよいと思います。そもそも瀬川さん、普段は室内に花を飾らないんですよね?
瀬川
庭作りや自然農を通じて、植物は大地に根ざしたものと意識するようになりました。また、住空間は基本的に静的に保ちたくて、その時の気分や季節感など動的な要素は、香りや音楽で変化をつけています。
渡来
はい。花は、その無機質な空間を損なわず、香りや音と同様に、今の気分にちょうどいい有機的なレイヤーをスポットで加えてくれる存在。室内にいて庭の花を眺めるのとはまた別の楽しみです。
瀬川
確かに、家具ともオブジェとも違うディテールが加わりますね。普段の無機質なレイヤーを損わずに切り花が存在し得ることがわかりました。花を飾ることで、家の中がより重層的になった気がします。これを機に“育てる”だけじゃなく“生ける”も始めてみようと思います。