新しいB.C.B.G.を作るパリジャン
パリを拠点に、今、世界で最も注目されている雑誌の一つ『l'étiquette』の共同編集長を務め、16区に友人らと開いたヴィンテージショップ〈Le Vif〉はたちまち大盛況。幼い頃から磨かれた審美眼とセンスでもって、世界から熱い視線が注がれる生粋のパリジャン、ゴーティエ・ボルサレロ。
彼の次なるステップは、パリの老舗紳士服ブランド〈FURSAC〉のディレクションだ。カジュアルウェア隆盛の現代において、紳士服、つまりスーツやドレスウェアをどのようにして、世の中にアピールしているのだろうか。
「まずは〈FURSAC〉とは何か、どんな男の歴史なのか、そのフレームを書き出すことから始めました。自信に満ち溢れ、稼いだお金は善のために使い、フランスを旅し、この国がいかに美しく多様であるかを示すパリジャン。スーツは決して廃れない。スーツを着た男は立ち振る舞いも変わる。フレームから導き出した、これらのメッセージを打ち出し、クリエイションのベースにしています」
歴史あるブランドの骨格をきちんと理解し、それを現代的に落とし込む手腕はさすがである。雑誌、ヴィンテージショップ、そしてブランド。どの業種でもセンスよく手がけるゴーティエが大事にしているのは「品質と一貫性」だという。メディアは違えど、雑誌の読者や店に来るお客さんの心の中の欲求を刺激し、良い服装をすることの重要性を訴えている、という点での一貫性。では、品質の良い服とは?
「厳選された生地と縫製、それにフィットするボリューム感が合わさった服です。〈FURSAC〉はまさにそれを体現するブランド。そして僕は、その服が10年後にどうなっているかをイメージしてデザインをしています。経年変化は美しい。だから、アイロンも必要がないときは使わないし、素材もなるべく自然なものを選ぶようにしている。時間が経ち、自分だけの味が出るように、〈FURSAC〉の服は、決してエイジング加工はしないのです」
かっこいい大人は、決してファッショナブルではない
現代のパリジャンのシックを体現するゴーティエ。そのスタイルを語るうえで“B.C.B.G.(ボンシック・ボンジャンル)”という言葉は避けられない。ただしそれは、クラシック一辺倒でない、現代のB.C.B.G.なのだ。
「僕の考えるB.C.B.G.とは、アイテムの選択とスタイルの組み合わせ方、そして選んだファブリックとボリュームのバランスにあります。例えば、〈ラコステ〉のポロシャツにチノパンを合わせ、〈コンバース〉を履けばプレッピーになる。けれど、それらをすべてオーバーサイズにして、靴の上にワンクッション溜まるようなパンツを穿けば、それはクールで現代的なプレッピーなんだ」
自他共に認める古着好きで、世界的なヴィンテージのコレクターでもあるゴーティエは、古いものと新しいものを絶妙なバランスでミックスする。今日も、フレンチワークのヴィンテージジャケットに、〈FURSAC〉のシンプルなTシャツとパンツを合わせていた。足元はドレスソックスに革靴、というのが何とも彼らしい。
「僕の考える“かっこいい大人”は決してファッショナブルではなく、その人の年齢や職業、出身、時代などに対応したパーソナルなスタイルを持っていることです。彼らはクールもしくはファッショナブルになろうとするのではなく、自分自身でいようとする。例えば、歌手のジャック・デュトロン、実業家のラポ・エルカン、元イタリア元老院議員のジャンニ・アニェッリ、スタイリストのジョルジ・コルテナのようにね」
最後に、ゴーティエにとって「必需品」とは何なのか。
「必需品とは、いつも側にあるもの。そして、僕の人生とともに年を重ね、風化していくような、上質であり、とてもよくできたものかな。大好きな古着や大切にしている〈ロレックス〉のオイスターサブマリーナーも、その一つ。『l'étiquette』や〈Le Vif〉、そして〈FURSAC〉を通して、上質なものが身の回りで年をとっていく素晴らしさを、みんなに知ってもらえたらなと思っているよ」