寄り道しても、人間味が伝わればいい
放送作家時代は伊藤蘭や松田聖子ら新人アイドルの番組に多く携わり、以後『伊集院光のOh!デカナイト』や、デーモン小暮、〈ウッチャンナンチャン〉や〈オードリー〉の『オールナイトニッポン』など、数々の人気ラジオ番組で構成を手がけてきた藤井青銅さん。
2024年に出版した著書『トークの教室「面白いトーク」はどのように生まれるのか』(河出書房新社)では、あまたの才能に触れてきた立場からトーク術について綴り、話題を集めた。そんな彼は、「ラジオの仕事を始めた時、先輩にまず言われたのは、“ラジオに『皆さん』はない”ということでした」と口火を切る。
家族がお茶の間で観るテレビとは違い、ラジオは一人で聴く人が多い媒体だ。そう教えを受けて以来ずっと、「言葉として“皆さん”と呼びかける場合でも、心情的には一人の“あなた”に語りかけるつもりで臨んでほしい」とパーソナリティに伝え続けてきた。
「リスナーにとっては、常に1対1でコミュニケーションをしている感覚なんですよね。ラジオはどうしても閉鎖空間のスタジオで、同世代が盛り上がる“部室トーク”になりがち。でも何十万人の“あなた”に向かって話しているので、パーソナリティには想像力を持ってほしいと思っています。
例えば、〈オードリー〉の番組では、僕はブース内に入らないけど、スタジオの隅に座って、自分の姿が彼らの視界に入るようにしているんです。そうすると2人が、“ラジオの向こう側に、自分より年上世代の人もいるんだ”とイメージしながら話せるから。
男性ばかりの現場なので、女子大生にバイトで入ってもらったこともありました。トークで下ネタが飛び出した時にその子がちょっと顔をしかめたら、“ここまで言うとやりすぎなんだな”と実感できるでしょう?その子の向こう側ではきっと、何倍ものリスナーが嫌な顔をしているはずですからね。
あとは若くしてデビューした芸人さんは特に、常に笑いのことばかり考えているんだけど、世の中で起きていることや時事問題にも関心を持ってほしいと伝えています。そうしないと、年を重ねていくうちに、社会経験を積んでいくリスナーとのズレがどんどん大きくなってしまうんです」
常に二塁打以上の若林正恭と、三振かホームランの春日俊彰
2024年、放送開始15周年を迎えた『オードリーのオールナイトニッポン』。同年2月に東京ドームでイベントを開催、約5万3000人を熱狂させ、芸人イベント史上最大規模となった。チケットは入手困難、ライブビューイングも行われ、ラジオ番組としては異例と言える圧倒的な人気を築いた根本には、真摯な姿勢があった。
「2018年には10周年ツアーで青森、愛知、福岡を巡って、最後に日本武道館公演を行いました。その時に“全国のリスナー、一人一人のことをちゃんと意識しているよ”と示せたことが、ここまでの支持につながったんじゃないかなと、僕は勝手に思っています。イベントとなると東京開催が多いけど、全国に聴いている人がいる番組だから、ツアーでしっかりと思いを伝えられたことは大きかったんじゃないかな」
長年一緒に歩んできた〈オードリー〉の若林正恭さん、春日俊彰さんの“伝え方”を、青銅さんはそれぞれどう捉えているのか。
「野球に譬(たと)えたら、若林さんはホームランを含め二塁打以上を絶対に打つ人。ある程度のクオリティを確実に出してくれるし、そこに自分の思いもしっかり乗せてくる。たまに話が思い出話などに寄り道することもあるけれど、それもいい部分だし、人間味が伝わりますよね。
片や、春日さんは三振かホームランの人。取捨選択せず全部を話すようなトークで前に進み、要点がわかりづらくなることもありつつ、そこが彼の面白いところだと思います。番組初期は2人それぞれと打ち合わせをしていましたが、春日さんは真面目な人だから、僕が何か言うと、しっかり指摘を反映してくるんですよ。そうなると、結果、なんだか面白くないんです。だから、春日さんのトークは整えない方がいいんだなって(笑)。
滑っても笑いになる人ですしね。僕がPodcast番組『人生こわい』で一緒にパーソナリティを務めている〈トリプルファイヤー〉の吉田靖直さんも、同じタイプ。独特の間があるのが吉田さんらしさだし、時には掛け合いが噛み合わないこともあるけど、そこも良いんですよね」
言葉だけでは伝わらない。伝えようとする姿勢が大事
ショートショート作家として、自身のキャリアをスタート。その後ドラマの脚本を担当するようになり、放送作家としても活動し始めた。それゆえ番組のトークを構成する際には、ストーリーを編むように組み立てる癖がついているという。新人作家時代、師である星新一からは、「野球選手でも3割打てば大打者なのだから、とにかくたくさん書くこと」と口酸っぱく言われたそうだ。
「執筆仕事に限らず、トークも番組作りも、3回に1回クリーンヒットが出せれば、それで十分なんです。ヒットを量産するよりも、たくさん打席に立つことの方が大事。毎回“ホームランを打とう”と気負うと、怖くてバットを振れなくなっちゃいますから。
ラジオのレギュラー番組では、毎週笑わせなくていい。失敗した回があったとしても翌週に挽回できるし、時々めちゃくちゃ面白ければ、あとはそこそこでOK。しゃべるのが苦手だと感じている人は、“基本、話は伝わらないものだ”という前提を頭に置いておくのがいいんじゃないでしょうか。言葉だけで完璧に伝えようと思っても、それは無理な話なんですよ。
例えば目の前にあるペットボトルの形状を声だけで説明しようとする。“通常の500mlサイズなんだけど、ちょっと形が太いというか、ぽってりしていて……”と言葉を重ねても、結局聴き手の想像力に委ねる部分が半分くらいは必要で、いまいち伝わらないですよね。でも、一生懸命何かを伝えようとしていることだけは伝わる。話すのが苦手な人はゆっくりになっても、嚙んでもいい。トークで大事なのは、確実に伝えることよりも、伝えようとする姿勢の方だと思います」

藤井青銅が考える、心地よいラジオトークを生むルール
・“皆さん”にではなく“あなた”に話しかける。
・トークを整えすぎず話し手の個性を生かす。
・一生懸命伝えようとしている姿勢を示す。