2021年下期には、短編映画『DIVOC−「名もなき一篇・アンナ」』、フジテレビ系ドラマ『アバランチ』。そして2022年に入ってからもNetflixのオリジナルドラマシリーズ『新聞記者』……と、とにかく新作が止まらないのが藤井道人監督。
「映像の仕事って、1日接しないと3日分忘れてしまうもの。毎日触れ、考え続けることが大事だと思っています。その上で、ジャンルが違うものを同時に進めると、自分に飽きることなく良い相乗効果が生まれるんですよ。と言いつつも、日々テンパっていますが(笑)」
そう話す藤井監督にとって、ホームと言えるのが映画の現場。ほかの映像制作の現場とは異なる魅力があるという。
「撮影部も俳優部も美術部も、映画の現場には作品を良くすることに純粋な人が多く、各部署が互いをリスペクトし合って進められることが魅力だなと思っています。そして、全員を同じ方向に向かわせることが監督である僕の仕事。ズレて変な形になったら整えて、とろくろを回している感じ。途方もない作業ですが、そこが楽しいんです」
新作映画『余命10年』は、余命を知った小松菜奈演じる女性の最後の10年を、坂口健太郎演じるかつての同級生との恋を中心に描く。四季の変化とともに展開する本作の1年間もの撮影も、チームプレーの賜物だった。
「セリフを入れずに、音楽とシーンだけで月日の経過や関係性の変化を描く“点描”というパートがあるのですが、ここはほとんど何も決めずに、ドキュメンタリーで撮りました。小松さんと坂口さんには、この道を自由に散歩してみて、と。撮影班にも自由にどうぞ、と。
もちろんゴールは共有しつつも、委ねることでこそ立ち上がる空気や感情があるはず。それを収めたかったんです」。
一方、対比的にディテールを決め込み丁寧に作っていったのは、ドラマのパート。「僕たちは、役が憑依した俳優に、適切なレンズを選び、適切な光を当てて撮るべき」と藤井監督。
本作のみずみずしいリアリティは、計算された芝居とドキュメンタリーの共存から生まれたものだ。
「次は、現代劇ではなく、非日常な作品を撮ってみたい」と話す藤井監督。こう続けた。
「人は本来、観たことがないものを観たくて映画館に足を運ぶはず。20代は、身の回りの狭い世界を映画にし、30代では社会的な作品を撮ることが増え、おかげで視野も広がりました。
だから次は真っすぐ、未来やファンタジーなど、“観たことがない”テーマに向き合いたいなと。40歳までの目標ですね」