「どんな状況でも人は楽しめる何かが必要です」
今年2月に発売された週刊朝日にて掲載された村上さんの言葉。誰しもが少なからず鬱屈とした気分を抱えていた時期に、この発言は話題になりましたね。
私もこの言葉に深くうなずかされた一人です。なぜなら、村上さんはこれまでもずっとそうしてきたから。それは著作を読めばとてもよくわかります。
実はこの特集の話が持ち上がったのは今から1年前のこと。数多くの小説家の中で、「一番好きなのは誰か?」と聞かれれば間違いなく「村上春樹」と答える自分にとって、この特集に参加できたのはまさに夢のような出来事。村上作品に出てくるアーティストを逐一調べたり、気に入ったらレコードを買ってみたり。本棚を見れば、サリンジャー、ヴォネガット、ロンドン、チャンドラー etc……
特集が決まってから、著作をあらためて読み直してみたのですが、とりわけ心に響いたのはエッセイ。旅先で欲しかったレコードを見つけて大興奮、ジャズクラブで演奏に心を奪われ、そして街角のパブで好きなだけビールを飲む。大作家として、大仰な印象を持ってしまいがちですが、エッセイにはポップでチャーミングな村上さんの素が垣間見えます。
話は冒頭に戻り、2021年。今回のインタビューをとおして感じたのは、村上さんはやはり音楽に耳を傾け、パスタを茹で、本を読み、自分にとっての“小確幸”(「小さいけれども確かな幸せ」という村上さんの造語。韓国、台湾では数年前に流行語になったみたい)を大切に生活しているということ。まだまだ続きそうな大変な時代に、カルチャーを楽しむことの大切さを改めて投げかけられたような気がしました。
村上春樹特集は、2号連続です。今号は「読む。」編。
2号目は「聴く。観る。集める。食べる。飲む。」と、タイトルだけでも盛り沢山な感じが伝わってくる特集です。
2冊で1号とお考えください。(どちらも絶対買って欲しい、だけど邪な気持ちの発言じゃないですよ、2号読み通さなければ見えてこないものがあるのです)
清水 政伸(本誌担当編集)