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「温もる、洋食。」編集後記:陸に揚がってきた洋食

2023年2月1日発売 No.978「温もる、洋食。」を担当した編集者がしたためる編集後記。

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陸に揚がってきた洋食

自分が神戸(付近)出身ということもあって、なかでも勇んで向かった取材が「洋食を巡る旅へ」の神戸編でした。執筆をお願いしたのは、関西でおなじみの雑誌『Meets Regional』の創刊に携わり、書籍『神戸と洋食』も上梓された江弘毅さん。誌面にその詳細を書いていただきましたが、神戸洋食の系譜は大きく3つに分けられるとのこと。

そのうち1つが「船」の系譜、つまり明治以降、外国航路の船舶で腕をふるっていたコックが、陸に揚がって開いた洋食店の系譜。カニクリームコロッケでも「船上はリスクがあるから油は使わない」だとか、シチューは「こぼれないようにマッシュポテトで“縁”を作る」だとか。当時の創意工夫が、今もひと皿からビシビシと伝わってきます。船を降りて〈グリルミヤコ〉を開いた宮前敬治氏のご息女で、今、店頭に立つ宮前香里さん曰く「外国への主な移動手段が船だった1950年代頃、外交官たちの船上の楽しみは料理くらいしかなかった」と。コックが重宝され、船に乗ることは料理人のある種のゴールだったそうです。そんな場所で出されていた高級料理が、さまざまな人の手で身近な料理になったのも、ひとつの今の洋食。もっと感謝していただかねば……と思い至りました。

神戸洋食の残り2つの系譜ほか、京都やニューヨークなど、国内外の洋食事情を掲載している今号、ぜひご覧ください。

「温もる、洋食」編集後記:陸に揚がってきた洋食
宮前敬治氏がアメリカ航路の船上でチーフコックを務めていた1957年8月のある日、お客向けに出されていたメニュー表。タイプライターで紙に毎日の料理が打たれ、配られていたそう。

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