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「全国民に贈るサザンオールスターズ特集」編集後記:打たれ弱い私たちは、今日もサザンを口ずさむ

2025年3月1日発売 No.1026「全国民に贈るサザンオールスターズ特集」を担当した編集者がしたためる編集後記。

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打たれ弱い私たちは、今日もサザンを口ずさむ

「みんなのうた」をライブで演奏するサザンオールスターズを観ると、涙が止まらなくなる。2020年の無観客配信ライブ『Keep Smilin’~皆さん、ありがとうございます!!~』を自宅で観たときからだ。

桑田佳祐は画面に向かって水鉄砲で水をかけていた。「みんなのうた」はライブ終盤の定番曲で、桑田がホースで豪快に水を撒いたり、水の入った紙コップを片っ端から客席に投げ入れたりするパフォーマンスが名物となってきた。

それをコロナ禍で行われた配信ライブでは、桑田は小さな水鉄砲を手に、しかし全力で、細い筋の水をカメラに向かって噴射していた。ユーモアと情熱。誰もが未来に不安を抱き、自宅で窮屈な時間を過ごす中で、人々の心を少しでも温めたいという強い意志に、胸を打たれた瞬間だった。

今回取材で訪れた『LIVE TOUR 2025「THANK YOU SO MUCH!!」』の石川公演でも、特にニューアルバムの収録曲で、やはり涙が止まらなかった。今を生きるすべての人々へのエールがあり、自分たちが聴いてきた音楽への深い愛情があり、そして新曲を披露する前の緊張感がファンへの敬意を何よりも物語っていた。

本誌掲載のインタビューを読んでいただければ分かる通り、サザンはレコーディングやライブにおいて、確立されたメソッドや理論を持って取り組むタイプのバンドではない。毎度、世間や客席と真摯に向き合い、そのスリルの中で生まれてくる歌の一節やふとしたパフォーマンスが、私たちの心を捉える。半世紀近い活動を経てもサザンが懐かしくならない最大の理由はそこにあると私は思う。

桑田佳祐は本誌のインタビューで、様々な災害やコロナ禍を経て世の中全体が「打たれ弱くなった」と語った。常に世間と対峙し続けているからこそ出てきたリアルな言葉だと感じた。人は衣食住のみにて生きるのではない。心を温めてくれる音楽が必要だ。だからこそ、私たちは今日もサザンを口ずさむ。

1月上旬、石川県産業展示館で行われた石川公演にて。
「全国民に贈るサザンオールスターズ特集」ポップアップバナー

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