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今作も極上のミステリーに。フランソワ・オゾン監督が語る映画『秋が来るとき』

フランスの映画監督フランソワ・オゾンの新作『秋が来るとき』が公開される。オゾンらしい極上のミステリーにもなっている今作について、監督本人に話を聞いた。

text: Mikado Koyanagi / edit: Anna Abe

日本でも人気の高いフランスの映画監督フランソワ・オゾンの新作『秋が来るとき』が公開される。美しい自然の残るブルゴーニュ地方で一人暮らしをしている、人生の黄昏時を迎えた80歳の女性ミシェル(エレーヌ・バンサン)を取り巻く人物たちをめぐるドラマであり、オゾンらしい極上のミステリーにもなっている。そこで、オゾン本人にこの作品について話を聞いた。

前作に引き続き描いたシスターフッド

『秋が来るとき』場面シーン

この映画の見どころの一つに、ミシェルと、同じ村に暮らす昔の仕事仲間のマリー=クロード(ジョジアーヌ・バラスコ)の友情があるが、そうした女性たちのシスターフッドを描いているという点では、タッチはだいぶ異なれど、殺人事件の容疑を晴らすために協働する二人の若い女性を描いたオゾンの前作『私がやりました』とも繋がって見えてくる。

「前作はコメディで、今回は人間ドラマ。また、前作は若い女性、今回は高齢の女性たちの話ですから、自分の中では別物ととらえてはいるのですが、おっしゃるように、共通項としてはシスターフッドがありますし、どちらの女性たちも闘っていますよね。前作ですと、男性中心の社会に対して。舞台となる1930年代は、まだまだ女性蔑視が酷い時代でしたからね。

そして、今回の作品に関しては、高齢の女性たちが、二人とも人にはなかなか打ち明けにくい、後ろめたい過去を持っていて、それを社会が今なお受容していないことに対して闘いながら子どもを育ててきた。そういう意味では、常に闘っている女性たちの連帯というものを共通項として持っていますね」

ミステリーから生まれる想像の余白

『秋が来るとき』場面シーン

この映画は、ミシェルがそのように苦労して育ててきたものの関係が思わしくない、パリに住む娘ヴァレリー(リュディヴィーヌ・サニエ)とその息子ルカ(ガーラン・エルロス)が、久しぶりにミシェルの田舎の家を訪ねてくるところから始まる。ところが、振る舞ったキノコ料理に娘があたってしまったことで、さらに関係が悪化してしまう。

一方で、友人のマリー=クロードには、刑務所帰りの息子ヴァンサン(ピエール・ロタン)がいる。ミシェルは、そんな彼が立ち直るための経済的な援助をしているのだが、孫にも会えず、落ち込んでいるミシェルの様子を見かねたヴァンサンは、意見しようとパリのヴァレリーのアパルトマンまで押しかける。そして、二人が出会ったあと、そのベランダで「ある事件」が起こってしまうのだ。

とはいえ、カメラは決してその瞬間を描かない。そのことから、観ている者の心のうちに様々な疑問や臆測が生まれてきて、知らず知らずオゾン流ミステリーの罠にはまっていってしまう。

『秋が来るとき』場面シーン

「私が今回描いた人物たちは、良い面もあれば悪い面もある、白黒はっきりつけられないような人たちですが、あえてそうした人物造形を試みました。もちろん、映画の中で、彼らが行った言動は見えてはいますけれど、その奥に潜む隠れた欲望とか、無意識という領域は計り知れない部分ですよね。つまり、それは私がすべて語るのではなく、観客の想像に任せる余地を残したということなんです。

私はシナリオの作者として、あのベランダで何が起きたのか知っています。でも、それをあえて撮影はしませんでした。そうしないことで、観客たちが自分が望むようなシナリオのシーンを想像してくれればいいと思って。中には非常に楽観的な解釈をする人もいれば、逆の人もいる。ミシェルはすごく素敵なおばあちゃんという人もいれば、モンスターだという人も。そんなふうに観客のそれぞれが、自分の中でシナリオの一部を補足してくれるということはとても嬉しいことです。また、それが人生というものではないでしょうか」

初期のオゾン映画のミューズが、約20年ぶりに出演

『秋が来るとき』場面シーン

そのベランダのシーンにも関わってくる、ミシェルの娘ヴァレリー役を、『8人の女たち』や『スイミング・プール』など、初期のオゾン映画のミューズでもあったリュディヴィーヌ・サニエが演じているのが嬉しい。何と約20年ぶりのオゾン映画への出演となる。

「彼女は一緒にデビューしたと言ってもいいくらいの、僕の妹みたいな存在。最後に撮ったのは『スイミング・プール』でしたね。あれから約20年が経って、今では3人の子どもの母親でもあります。そんなふうに時を経て、一人の女性がどのように変化するかを見届けるということにとても興味があるんですよね。そこで、リュディヴィーヌに、この映画を一緒に撮ろうと言ってシナリオを渡したら、彼女の最初の反応は、『まあ、フランソワ。全然感じの良い役じゃないじゃない』と(笑)。『でも、だからこそ受けることにするわ』と言っていました」

映画のメタファーとして機能するキノコ

『秋が来るとき』場面シーン

最後に、この映画の中で重要な小道具として登場するキノコについて聞いてみた。

「キノコはこの映画のメタファーでもあるんですね。キノコは調理したら美味しいけど、ひょっとしたら毒を持っているかもしれないという二面性がある。それは人生にも人物にも当てはまることだと思うんですよ。凄く良い人だなと思っていたら、意外と危険な人っているでしょう。そういう意味では、人生ではできるだけ美味しい毒のないキノコにあたることが大事なんですね。

この映画は、秋に始まり秋に終わるんですが、それもキノコから来ています。秋に森でキノコ摘みをするシーンから始まり、また最後は森に帰っていく。そのように、命の循環というものが行われていることを、この映画で描いたつもりです」

オゾンは、現在も1〜2年に1作のペースで精力的に映画を撮っている。次の新作は、モロッコを舞台にしたアルベール・カミュの『異邦人』の再映画化だという。完成が今から楽しみだ。

『秋が来るとき』
フランソワ・オゾン監督の新作。監督の幼少時の思い出の地でもあるブルゴーニュの深まりゆく秋の風景も美しい。また、老齢を迎えた二人のベテラン女優エレーヌ・バンサンとジョジアーヌ・バラスコを主演に据えているのも素晴らしい。第72回サン・セバスティアン映画祭脚本賞&助演俳優賞受賞。5月30日より全国公開。