Listen

Listen

聴く

フライング・ロータスが紹介。偉人たちが表現する、宇宙を感じる曲5選

フライング・ロータスいわく「宇宙は無限でもあり、無でもある」。SF的な電子音から内的宇宙を描いた作品まで、一挙に紹介。ようこそ、偉人たちが誘う、仮想宇宙へ。

text: Katsumi Watanabe

マイルスが与えてくれる
静かな宇宙のパワー。

おじさんの宇宙を感じる1曲。

レコーディングや制作作業の後、肉体的には疲れているんだけど、神経が過敏になって眠れないことが多い。ストレスというより、先のことをいろいろ考えるクセがあってね。そんな時、音楽を聴くんだけど、気づいたら宇宙をテーマにした曲や壮大な銀河を想起させる作品が多いんだ。

叔父のジョン・コルトレーンはマイルス・デイヴィスの楽団に所属していたことがあったから、小さな頃から家で聴いていたよ。オレにとってマイルスは、おじさんみたいな存在かな。ジョン・マクラフリンの奏でる電子シタールがヤバい「Lonely Fire」は宇宙のパワーを与えてくれるようで、熟考する能力を与えてくれる。眠れなくなるけど、ネガティブな考えは取り払ってくれる。

「Lonely Fire」Miles Davis
「Lonely Fire」Miles Davis/1974年発表の2枚組大作『Big Fun』から。「自分で音楽を作り始めてから『Big Fun』を聴いてみると、チック・コリアやジョー・ザビヌルなど超絶メンバーが勢揃いしていて。感服」(ロータス)

日本の電子音楽の先駆者が、
LAの少年に浴びせた月光。

英雄の宇宙を感じる1曲。

アニメは『ドラゴンボール』、ゲームは「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」など子供の頃からメイド・イン・ジャパンのものが大好き。中学生の頃ヒップホップにハマってから、新しいビートを探すために、毎日ラジオを聴いていた。プライムタイムはコマーシャルのつまらない曲ばかりだけど、深夜は世界中の音楽やインディばかりかける局があって。

そこでイエロー・マジック(・オーケストラ)の「Behind The Mask」の後、トミタの「月の光」がかかった。ゲームのエンディングみたいで、すごく感動した。翌日すぐCDを買いに行ったよ。70年代のトミタはタンスのように積まれたシンセサイザー《ムーグⅢ》を使って電子音楽を拡張していった人だ。今でも尊敬してる。

「Clair De Lune」Tomita
「Clair De Lune」Tomita/ドビュッシー「月の光」を、《MOOGⅢ》を駆使し制作。当時斬新すぎたサウンドは、1974年に米国から世界発売された。『月の光』収録。「どこまでも遠い場所へと連れていってくれる」(ロータス)

神秘主義の作曲家が奏でる
内的宇宙への導入口。

神秘の宇宙を感じる1曲。

鳥の鳴き声を採譜していたオリヴィエ・メシアン、電子音楽の父と呼ばれるシュトックハウゼン、そして、ジョン・タヴナーの3人は、宇宙や神など、絶対的な存在を、人間の内面に響かせ、その影響を音楽にする、神秘主義の作曲家と呼ばれている。中でもタヴナーは幾度も改宗しながら音楽を作り続けた伝説の作曲家だ。

「Funeral Canticle」は、とてもスピリチュアルで、彼の代表曲の一つだと思う。信心深い人間じゃなくても、これを聴いたら思わず心を動かされてしまうような荘厳さがある。自分の胸の中で、魂が膨張するのを実感できるんだ。23分の曲だけど、曲が終わる頃には、真理を見つけている。というか、眠りに就いてるんだけどね。

「Funeral Canticle」John Tavener作曲
「Funeral Canticle」John Tavener作曲/邦題「葬送の聖歌」。『Eternity's Sunrise』収録。「合唱隊のハーモニーや音の響きで子供の頃はただ眠くなってた(今も時々)けど今聴くと意外と神経質な音」(ロータス)

おばさんから受け継いだ
宇宙のパワーを形にしたい。

おばさんの宇宙を感じる1曲。

アリス(・コルトレーン)おばさんは、近所に住んでいて、よくうちへ来ていたんだ。小柄で優しい人だったけど、常に強烈なオーラとパワーがあった。それは小さいオレにでもよくわかったよ。自分でも音楽を作るようになった高校生の時、おばさんのアルバムに出会った。フリージャズというのはたやすいんだけど、当時は形容しようがなく、呆然としたね。

ビルド・アンド・アークやカシマ・ワシントンなど、ジャズマンたちが奏でるフリーフォームな音楽、それを45年以上前にやっていたんだからすごいよ。共作する約束は叶わなかったけど、オマージュを捧げる曲を作りたい。おばさんから受け継いだ宇宙パワーを注入しようと思ってるよ。

「Isis and Osiris」Alice Coltrane
「Isis and Osiris」Alice Coltrane/アリスのハープ、アラブの弦楽器・ウードゥの響きが美しい。『Journey in Satchidananda』収録。「アリスおばさんの内的宇宙のように穏やかな作品」(ロータス)

ヤバい先輩が聴かせてくれる
美しいサウンドスペース。

先輩の宇宙を感じる1曲。

高校生時代、イギリスのエレクトロニカを掘っていたら〈WARP〉というレーベルに辿り着いた。ボーズ・オブ・カナダやスクエアプッシャーなど、聴き進めるうち、ちょっと変なことに気づいた。このレーベルの連中はみんなクレイジーだってこと。それだから、パワフルな音楽が生まれてくる。まさか自分の作品をリリースするとは思ってなかったね。

MVの登場人物が全員、リチャード・ジェイムスの顔に変身するエイフェックス・ツイン「Windowlicker」を見た時、卒倒しそうになったよ。でも、過去の音源を探るうち「Stone in Focus」のような美しいアンビエントもあって。幽体離脱して宇宙へ抜け出し、また自分の体へと戻ってきた瞬間に聴いてみたい音楽だ。

「Stone in Focus」Aphex Twin
「Stone in Focus」Aphex Twin/その名を世界中に轟かせた名盤『Selected Ambient Works Volume Ⅱ』のアナログ盤に、収録された美しいアンビエント。「攻撃的なビートとの落差がすごすぎる」(ロータス)