ある朝、手折った、雑草の話。
「家の中に花がない時がない。いや、いつもあると思い込んでいるだけかもしれません。それくらい当たり前に、庭の花や、いただいた花が家の中には飾られている。妻が花を大好きで、一年中、庭で花を育て球根を植え、花がつくとそれを切って生けているんです」
そう話すのは写真家の上田義彦さん。妻というのはモデルの桐島かれんさんだ。日常にはいつも花がある。だから上田さんが生けることは珍しいのだが、今朝は少し違っていた。
「時々、誰にも気づかれずに咲いている花を見つけると、家の中に持って帰りたくなる。この薄い青の花は、今朝早く、家の裏庭で雑草のように咲いていたもの。名前はわかりませんが、あっ!と思ったんです。こんなにきれいな花が咲いているのに、みんな見てあげてよ、と」
切って帰って古いガラス瓶にさっと挿し、家族がいるリビングのテーブルに置いてみた。凝ったことはしない。葉先が少々枯れているけれど、その景色もいいと感じている。
「写真に撮る時、僕はいつも“あ”という感じなんです。あ、きれいだな。あ、なんだろう?それは気持ちが動いたということなのでしょう。身体的な、反射的な行為のような気もしますし、純粋に見たいものを見てワクワクしたいということの、延長線上にある行為とも言える。この雑草も、“あ”なのかもしれません」
自分の気持ちを動かした花を、家族にも見せたくて手折ってきた。
「ただそれだけで、こんなにうれしくなるものなんですね」