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上田義彦が好きな花。暮らしの中にあるハナニラ

一人で眺める愛おしさも、誰かと美しさを分かち合う楽しさも。好きな花があるって幸せだ。好きな花にまつわる、物語。

Photo: Yoshihiko Ueda / Text: Masae Wako

ある朝、手折った、雑草の話。

「家の中に花がない時がない。いや、いつもあると思い込んでいるだけかもしれません。それくらい当たり前に、庭の花や、いただいた花が家の中には飾られている。妻が花を大好きで、一年中、庭で花を育て球根を植え、花がつくとそれを切って生けているんです」

そう話すのは写真家の上田義彦さん。妻というのはモデルの桐島かれんさんだ。日常にはいつも花がある。だから上田さんが生けることは珍しいのだが、今朝は少し違っていた。

「時々、誰にも気づかれずに咲いている花を見つけると、家の中に持って帰りたくなる。この薄い青の花は、今朝早く、家の裏庭で雑草のように咲いていたもの。名前はわかりませんが、あっ!と思ったんです。こんなにきれいな花が咲いているのに、みんな見てあげてよ、と」

切って帰って古いガラス瓶にさっと挿し、家族がいるリビングのテーブルに置いてみた。凝ったことはしない。葉先が少々枯れているけれど、その景色もいいと感じている。

「写真に撮る時、僕はいつも“あ”という感じなんです。あ、きれいだな。あ、なんだろう?それは気持ちが動いたということなのでしょう。身体的な、反射的な行為のような気もしますし、純粋に見たいものを見てワクワクしたいということの、延長線上にある行為とも言える。この雑草も、“あ”なのかもしれません」

自分の気持ちを動かした花を、家族にも見せたくて手折ってきた。

「ただそれだけで、こんなにうれしくなるものなんですね」

上田義彦 花
自宅の裏庭で見つけた一輪を、古いガラス花器に挿した。「雑草だけどきれいだと思った」
花には、よく見ると小さな球根がついていた。その後、調べたところ、庭に自生するハナニラと判明。“ベツレヘムの星”という別名も。