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Tシャツには人が出る。アーティスト、トム・サックス

たかがTシャツ、されどTシャツ。Tシャツは、一枚一枚が持ち主の人生を雄弁に物語るものだ。アーティストのトム・サックスにお気に入りのTシャツを教えてもらいました。

photo: Kohei Kawashima / text: Momoko Ikeda / edit: Tamio Ogasawara

愛猫の爪で開いた穴まで愛せるかどうか。この話がわかる者を皆、同じ部族とする

Tシャツっていうのは壮大なテーマで、この取材を受けるかどうかも数日悩んだほどだ。もう何年も着倒しているマーク・ゴンザレスのTシャツのことなども話したいところだが、今回はもうちょっとベーシックなところから始めたい。

僕のスタジオでは、もう何年もプロジェクトのたびにオリジナルTシャツを作っているのだが、ほとんどの場合ベースは〈フルーツオブザルーム〉だ。理由は最も安価で手に入るから。

安いものの方が、生地がボロボロになる感じのテクスチャーがいいんだよ。僕はボディは硬めの方が好きで、それを着続けることで徐々に馴染ませていくんだが、チープなものはチープなクオリティで、すぐボロボロになる。価格は決して嘘をつかない(笑)。

ある時、ほんのちょっとだけクオリティのいいボディに替えたことがある。案の定しっくりこなくて、そのボディにあえて〈フルーツオブザルーム〉のフェイクタグをプリントしたんだ。つまりダウングレードさせたってわけ。当時プリントをお願いしていたLQQK STUDIOはそれを面白がって、プリント代を無料にしてくれた。

やっぱり人が着たり、時間をかけたりしたことによるほころびというのは美しいものだ。特にこのデジタル時代にはより価値を感じるね。僕がNASAの茶器をろくろを使わずあえて手作りして指紋を残すというのと同じことさ。ボロボロのTシャツを着てNYの地下鉄に乗ると観光客に笑われることもあるが、もちろん僕の格好こそがシックであることは言うまでもない。

世界中どこにいても、どんなTシャツを着ているかでその人となりはわかるし、着古したものを愛用している人を見ると、ああ同じ部族だなって思う。一種のコードだよね。

今は亡き愛猫のモンキーが、よく肩に乗ってきては爪でTシャツに穴を作っていたんだが、それだって愛おしいダメージだ。“マジックホール”と呼び、今でもそれらを慈しみながら着ている。